研究課題/領域番号 |
23820007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 泰教 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (50610953)
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キーワード | 郭嵩〓 / 対内・対外認識 / 風俗 / 『宣講集要』 / 『大学章句質疑』 / 『中庸章句質疑』 / 西洋政治像 / 議会観 |
研究概要 |
本研究は、清末期に地方大官や初代駐英公使を務め、独特な西洋理解、中国批判を行った郭嵩〓の「風俗」観念に着目し、清末士大夫官僚の対内・対外認識研究に新たな視座を提示するものである。郭において対内認識と対外認識とは密接な関係にあり、それをつなぐのが風俗観念であった。風俗とは、人々の心や行動から生じた場の雰囲気、習慣であるとともに、最終的に人の在り方を規定する大きな力となる。地方大官であった郭の課題は、この風俗をいかにして管理するかにあった。その郭が、西洋社会に関心を抱いていくのも、西洋社会がこの風俗の管理に長けていると考えたからであった。平成23年度は、この郭の風俗観念について(1)成豊年間の郭嵩〓の徴税論と風俗観念の関係、(2)同治年間の郭嵩〓にとっての外交と風俗観念の関係、(3)光緒初期、郭が風俗という観点から描いた西洋近代社会、という三つの観点から分析を行った。(1)については、宣講が郭にとって一生涯重要な行為であることが『宣講集要』、『郭嵩〓日記』の解読により判明した。(2)については、郭が同治期に執筆した『大学章句質疑』『中庸章句質疑』という政治哲学の書が、彼の風俗観念の形成に重要であったことを明らかにした。これらの二書は、重要かつ容易に閲覧可能であるにもかかわらず、従来さほど注目されてこなかった。研究代表者はこれら二書に対する自身の見解を、台湾の国際学会ならびに国内の研究会にて報告し、重要性を訴えた。(3)については、特に、郭嵩〓が風俗という観念から西洋議会制を認識していたことに注目し研究を進めた。まず、郭およびその周辺を事例に取り上げた場合、実に多様な西洋議会観が存在したことが判明した。民間人の意見を地方行政に反映させるための議会、官僚の発言の機会を増やすための議会、風俗改良装置としての議会である。郭嵩〓の見方は従来注目されなかった第三の見方であることが判明した。研究代表者はこの見解を、一般向けの総合学術雑誌として評価の高い『アジア遊学』(勉誠出版)にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はおおむね順調に進展していると言える。とりわけ『宣講集要』『大学章句質疑』『中庸章句質疑』など、比較的閲覧が容易でありながら注目されてこなかった史料の重要性に気が付いたことは、研究を進展させる要因となった。ただこれらの書は、中国の伝統学術である経学への理解が無いと読解困難であり、平成23年度はその経学自体の学習ならびに関連書籍の購入に相応の時間と費用がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は、中国伝統学術の学習と関連書籍の購入に相応の時間と費用がかかった。そのため当初予定していた広東などでの新史料調査の時間や費用を、これらの学習と書籍購入に充てざるを得なかった。今後は、平成23年度に蓄積した中国伝統学術の知識に基づいたうえで、当初の予定通り中国の図書館等での史料調査を行うことにより、研究の一層の進展が期待できると思われる。
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