本研究課題は、フランスの美学者ヴィクトール・バッシュ(一八六三-一九四四年)が、カントをはじめとするドイツ近代哲学、美学をどのように受容し、そのうえでいかにして自身の思想を育てたのかを、ひろく同時代のフランスの思想的環境にみとめられるドイツ哲学、美学の受容の努力をふまえつつあらためて検討することによって、バッシュの思想を立体的に把握しなおし、もって従来顧みられることのすくなかった彼の美学的思想に、そしてひいては、現在でも研究がすすんでいるとは言いがたい一九世紀末から二〇世紀前半にかけての時期のフランス美学に、あらたな光を投げかけるとともに、いまだ解明されざる部分のおおい近代哲学、美学上の独仏関係の一端を明らかにすることを目指すものである。この目的にさいして、初年度にあたる平成二三年度には、冬にパリへの出張もはさみつつ、バッシュにかんする文献資料を収集、調査し、彼の思索のありようを、アンリ・ベルクソン(一八五九-一九四一年)など、バッシュと同時代に活躍した、やはりドイツ近代哲学との対話をへて思索をふかめたとみられる哲学者たちのそれと比較検討するとともに、世紀転換期にとくに盛りあがりを見せた「心霊現象研究」など、当該時期のフランスの思想的環境にかんする調査をあわせてすすめた。 平成二三年度には、得られた成果のうち、バッシュに直接かかわるものは公表できなかったが、ベルクソンにかんするものについては、第六二回美学会全国大会における口頭発表ならびに著作として、また、「心霊現象研究」にかんするものについては、国士舘大学哲学会シンポジウム「ヨーロッパ的理性の境界へ」における提題ならびに『国士舘哲学』第一六号掲載の論文として、それぞれ公表した。
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