研究課題/領域番号 |
23820010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 順也 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任研究員 (50613858)
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キーワード | フランス近代美術史 / ポール・ゴーガン / 芸術家受容 / コレクション / 美術館 |
研究概要 |
平成23年度は博士論文「二十世紀前半のフランスにおけるポール・ゴーガンの受容研究-芸術家表象と作品蒐集をめぐる芸術社会学的考察」を、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻比較文学比較文化コースに提出し、審査を経て、課程博士の学位を授与された。 研究成果の発表としては、ゴーガンの作品を蒐集した初期のフランス人コレクターの実態を調べ、『実践女子大学美學美術史學』(26号)に「ポール・ゴーガンとフランス人コレクター」(審査有)と題した論文を発表した。一人の芸術家に対する複数の蒐集家の関与を解明した先行研究が乏しいなか、親類や知人の枠組みを越えて、第三者による能動的擁護が生まれてくる歴史的変遷を、各種の資料で裏付けることができた。このように評価が確立されていくプロセスの解明は、他の画家の事例にも応用できる研究のアプローチとなる。 また、作品を通した芸術家受容という観点から、ドイツのゲーテ大学で平成23年5月に開催された「第9回国際美術史コンソーシアム春季アカデミー」、ならびにスイスのフリブール大学で平成23年10月に開かれた研究集会において、フランス語による2回の口頭発表を行った。その成果の一部を『國學院大學紀要』(50号)に、フランス語論文「フランスにおけるポール・ゴーガンの受容と没後の肖像画の変奏」(査読有)としてまとめた。没した芸術家を画面に描くという行為は、美術史に対する画家自身の積極的な関与に他ならないことを、多くの作例を挙げて論証した。 今後の研究の発展につながる準備のために、平成24年1月に倉敷市の大原美術館に赴き、ゴーガンの絵画が収蔵された経緯と同時代の反応を調べ、フランスと対照させながら日本の状況を論じる基礎的調査を行った。また、平成24月2月にパリとリヨンで現地調査を実施し、未見であった一次資料を確認し、ゴーガンの作品が美術館に購入されたときの議論や経緯を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度には、国内の審査付きの紀要雑誌に2本の論文を発表し、内1本をフランス語で執筆した。また、計6回の口頭発表を行った。その内訳を記すと、2回はドイツとスイスにおけるフランス語での口頭発表、3回は国内での招待発表および招待講演、1回は学内の学術イベントでの発表となっている。平成24年2月の調査では、オルセー美術館資料室、ルーヴル美術館附属中央図書館、国立美術館連合資料室、リヨン美術館資料室を中心に調査を実施し、関連する一次資料の蒐集を行った。これらの現地調査を踏まえて、新たな研究成果を発表する準備を鋭意進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、松方コレクションが日本政府に寄贈返還されたときの交渉の経緯を調べるために、平成24年8月から9月にかけて、パリとナントで現地調査を行う予定である。他にゴーガンの作品を所蔵するグルノーブル美術館、ル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館、ボン=タヴェン美術館などの地方美術館でも、効果的な調査が実施できるかを見極めるべく、各美術館の担当者とメール等で連絡を取って、所蔵資料や研究者への公開状況などを確認している最中である。その一方で、2012年2月に実施したフランスでの現地調査の成果も論文にまとめていく。現時点では、国内外の研究者と緊密な連絡が取れており、今後の研究の遂行に向けて、特筆すべき問題はないと考える。
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