文学者は、自らの表現媒体である言語をどうみなしているのか。また言語をめぐる意識は作品においていかなる形で反映されるのかという問題は、古典古代から現代にいたるまで長い水脈を保っている。本研究においては、ジャン・ポーランやミシェル・レリスといった両大戦間期に文壇に活躍した批評家や詩人の言語観を中心に考察を行ったが、その結果、研究は四つの方向性で行われることになった。 第一に、ジャン・ポーランという人物について調査を続行している。人物研究の副産物として、彼の生まれ故郷であるニームについて『フランス文化事典』にコラムを執筆した。また『新フランス評論』の計量的分析、すなわちこの雑誌の編集長としてポーランがいかなる編集方針で編集を行ってきたかを調査した。その結果、ジャン・ポーランが編集長になってから人類学の分野で活躍する人物の評論なり作品を掲載してきたことが特徴として明らかになる。ここから第二の方向性が表れてきた。文学と人類学の両方に興味を抱いた文学者は多いが、その中でもミシェル・レリスは、ジャン・ポーランとも近く、独特の言語観を持っていた。ボルドー大学で開催された国際シンポジウムでは、レリスの詩作品と言語観に触れた発表をフランス語で行った。 第三に、研究の目的として触れた古典古代の雄弁学と修辞学から連なる歴史の射程について、フランスの研究者のウィリアム・マルクス氏との知己を得、彼の著作『文人伝』の翻訳に着手することになった。この評論では、洋の東西や聖俗を問わず、文学愛好者の言語意識について手際よく触れられており、本研究において大いに役立つ内容を備えている。 第四に、言語観が社会からどれだけ影響を受けているのかという問題と出会った。関心を共有する研究者とともに各地に起こるモダニズム運動を研究する「モダニズム研究会」を立ち上げた。今後さらに発展が期待される研究となるであろう。
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