研究課題/領域番号 |
23820019
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
小西 公大 東京外国語大学, 現代インド研究センター, 研究員 (30609996)
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キーワード | エスノスケープ / ローカリティ / グローバル化 / 生計戦略 |
研究概要 |
本研究は、インド北西部タール沙漠エリアを対象地域とし、主として経済自由化がもたらした近代化やグローバル化の影響による、支配カーストを中心とした旧来の安定した社会関係の崩壊の過程と、人々の新旧多様な社会関係資本を駆使しつつ形成する新たな生計実践の形、およびそこから湧き上がる自集団への再帰的な意識のあり方を明らかにすることを目的としている。当年はこうした問題意識から、エスノスケープ論の可能性を模索すべく、グローバル化と文化事象の変化の関連を扱った文献や、学術史におけるローカリティ概念の系譜等に関する文献の精読に力を注いだ。また、インドにおける芸能関連研究の文献のリストアップや電子情報データベースを用いたトライブ関連の学術論文の収集に努めた。 3月にはインドにおいて文献収集及びラージャスターン州における現地調査を敢行した。現地では主にムスリム楽士集団であるマーンガニヤールの人びとの、従来の社会関係(特に支配カーストとの間で多くみられるパトロン-クライアント関係)の崩壊の様相を明らかにするとともに、都市へと流入する彼らの居住空間とネットワークを明らかにする作業を行った。彼らはタール沙漠エリアに点在するが-オンと呼ばれる集村形態における家屋を廃棄し、より演奏活動や観光客へのティーチングを行うことができる、芸能関係者のみで形成される居住地区=カラーカルコロニー(「芸能者の居住区」の意)に居を構えることを最大の目標としている。このエリアでは、これまで接することのなかった外部から流入してくる多様な芸能集団が混在しており、「芸能」という共通項を通じて新たな共同性が生み出されつつある。このエリアがどのように形成されてきたのかという歴史的背景も明らかになってきており、彼らの新たなエスノスケープを描き出すうえで重要なフィールドになることが予測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内における文献資料の収集および精読の作業が比較的充実したものになり、エスノスケープ論と従来のローカリティに関する理論の蓄積との接合の可能性を見出すことができたため。また、現地調査ではこれまで培ったネットワークをもとに、彼らのおかれた現状に関して十分にデータを集めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
エスノスケープ論とローカリティ論の接合可能性を探っている過程で、人類学や人文地理学で重要な位置を占めてきた「場所-空間」論の精査が必要となってきた。引き続きグローバル化における再帰的な自己意識に関する総合的な理論化のあり方を模索していく。また、現地調査では主に芸能集団に偏ったデータ収集となったため、今年度はトライブの現状を把握するための集約的なフィールドワークが必要となる。
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