当該年度は前年度の調査結果から、「前衛音楽」をめぐる言説の変遷について考察するためには、第一次世界大戦前後の音楽雑誌における資料調査を行う必要性があることが判明した。それゆえ、まずはRevue Musicale S.I.M誌に焦点を当てて調査を行い、7月にパリにおいて開催されるFrancophone Music Criticism定例会議で研究発表を行った。 ここでは、「前衛音楽」という語の表象について、他国の言説も含めて考察する必要性が指摘された。同時に、S.I.M誌の革新的傾向やRevue Musicale(1920- )との関連性に着目した本研究の意義については評価された。 本年度の後半はS.I.M.誌とRevue Musicale誌の関連に焦点を当てて調査分析を行った。その結果、「前衛」および関連語の「革新的」「新しさ」といったキーワードで語られる音楽については、「多調性」、「無調性」、「カコフォニー」といった和声的側面から議論されていることが明らかになった。こうした価値観は19世紀的音楽観を引き継ぐものではあるが、その背景としては対ドイツ・オーストリアという視座があるために、こうした価値観からの議論を戦略的に行う必要性があったと考えられる。それゆえ、主としてドイツ・オーストリアの音楽雑誌および音楽史書における「前衛音楽」の表象と比較しながら、1920年代フランスにおける「前衛音楽」の表象について考察を深めることが今後の課題となる。
|