研究概要 |
インド大乗仏教の主要学派である中観派の主目的は、究極的真実たる「空」の体得である。しかし、その過程において世俗的な真実を無視することはできず、こうした事情から二真実(究極的真実と世俗的真実)の理論が非常に重要視されるようになる。 本研究課題はボン教の二真実説の解明が主目的であるが、単にボン教の説を概説するのみならず、インド仏教やチベット仏教との比較思想研究を行うことが最終目標である。したがって、本年度は、(1)インド仏教、(2)チベット仏教、(3)ボン教、3つの領域における二真実説の展開について研究を行った。 (1)インド仏教:原典を参照した上で、インド仏教中観派の二諦説の展開過程を整理した。その成果は、拙著The Two Truths in Bon (Kathmandu : Vajra Publications,2011)の第1章第1節にて論述した。 (2)チベット仏教:原典を精読した上で、チベット仏教宗義文献における、二諦説の展開過程を整理した。その成果は、拙著The Two Truths in Bon (Kathmandu : Vajra Publications,2011)の第1章第2節にて論述した。 (3)ボン教:原典を精読した上で、ボン教における二諦説の展開過程を整理した。その成果は、拙著The Two Truths in Bon (Kathmandu : Vajra Publications,2011)の第1章第3節、および、第2章~第5章にて論述した。 また、ボン教は仏教伝来以前よりチベットに存在する古い宗教である。したがって、ボン教文献中には、仏教には存在しない多くの術語や古語が出てくる。既存のチベット語辞典や仏教語辞典などでは、これらの語彙をカバーできず、原典読解に支障をきたしている。そこで、ボン教文献を読むために必要な、チベット古語・ボン教術語辞典を編纂し始めた。現在、全30基字中、第1~3基字のセクションの原稿が完成した。
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