研究概要 |
本年度は以下の二点について研究を実施し、一定の成果を得た。 1,初期近代の記憶術文献の書誌学的整理 初期近代の記憶術文献に関して、豊富な蔵書量を誇るピサ高等師範学校図書館およびフィレンツェ国立中央図書館において、十七世紀以前の記憶術関連の文献を抽出し、それらの複写を可能な限り入手して、書誌学的な観点からの分析・整理を行った。この作業は次年度も継続して行い、最終的には、いまだに全貌がきちんと把握されていない初期近代の記憶術文献の総合的な書誌学的見取り図の構築を試みる予定である。本年度特に重点的に分析を行ったのは、Thomas Lambertus Schenkelius, Gazophylacium artis memoride (1610); ID., Methodus sive declaratio in specie quo modo latina litina sex mensium spacio doceri...(1619); C. Valerius, Rhetorica, a cura di L.Schekel (1513); ID., Tabulae totius dialecticeota (...) exponentur,1547.等の文献である。書誌学的整理ばかりではなく、内容まで踏み込んだ詳細な分析の結果、記憶術と同時代の哲学潮流(=「方法」概念)との、これまで深く掘り下げられてこなかった関連性を発見し、その成果を2011年12月にピサ高等師範学校で開催された国際シンポジウムにて発表した。発表原稿は、同シンポジウムの論文集に収録予定である。 2、十六世紀の記憶術文献とトスカーナ大公国の芸術文化との関連についての分析 (1)での暫定成果をもとにしつつ、Cosma Rosselli, Thesaurus artificiosae memoriae (1571)の精読を行い、とくに地獄と天国の表象を記憶のロクスとして設定する箇所の分析を行った。その過程で、ロッセッリが用いるロクスが、同時代の地獄表象アート、とりわけピサのカンポサントに描かれたBuffalmaccoによるフレスコ画を着想源としている可能性を導き出した。現在は資料を分析中であるが、その成果は2012年の『西洋美術史研究』に論文としてまとめる予定である。記憶術と視覚芸術のあいだの、これまで知られていなかった影響関係を明らかにする、意欲的な論文となることが期待される。
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