本研究の目的は危機言語の再活性化運動の成功例として論じられてきたハワイ語研究に相互行為の視座を導入することである。言語文化の保護保存のために実施された母語話者へのインタビューなどを談話テクストを構築する相互行為として捉えなおした上で分析を行い、言語理論への寄与と言語共同体への支援を深化させることを目指している。 平成24年度の主目的はデータベースの継続的構築、文字起こしデータの精密化、(3) データの分析、分類、類似例の収集、そして一般化を行うことであった。ハワイ州のビショップ博物館のアーカイブスでは博物館の研究員がハワイ語の母語話者に行った1960 年代のインタビュー録音と文字起こしされた資料が購入可能だったので、平成23 年の調査中に数点入手していた。しかし、翌年の平成24 年に博物館が所蔵資料をめぐる規則の大改訂を行い、資料の追加購入が不可能になっただけでなく、既に購入した録音資料を用いた研究までも制限する趣旨の発言を行うようになった。 結果として、計画の変更を余儀なくされ、類似はしているが文字起こしデータが存在しないラジオ番組におけるハワイ語主体の会話データを入手し、研究協力者の助けを借りて4番組(4時間)分の文字起こしを行った。また、英語主体の別のインタビュー録音やテレビ番組の映像を対象として、多言語会話データの文字起こしおよび分析を実施し、このような多言語会話で参加者は何を成し遂げたか分析した。 分析者の視点からすると、会話の参加者の発話は複数の要素を含んでいる。しかし、参加者は混淆した言説行為をハワイ語あるいは英語による言説行為と必ずしも特定しない。分析者の視点からするとハワイ語に帰属する資源を用いて話し続けて英語の要素を織り交ぜることも、その逆も参加者の視点からすると「ハワイ語する」ことであり、混淆こそ「われわれのことば」であった。
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