研究課題/領域番号 |
23820030
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
植 朗子 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (20611651)
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キーワード | グリム兄弟 / ドイツ伝説集 / 配列 / エレメント |
研究概要 |
本研究の目的は、19世紀前半にグリム兄弟によって編纂された『ドイツ伝説集』を題材としており、平成23年度の研究実施計画では、『ドイツ伝説集』に収録されている伝説の類話の調査を主としていた。ドイツ本国においても、『ドイツ伝説集』の類話研究とその比較は、ごく限られた数種類のモティーフ研究に留まっており、グリム研究において、調査が進んでいない分野といえる。 平成23年(2011年)10月16日から、ドイツの伝説に関する調査とドイツ民俗学研究者との意見交換を目的に、ドイツ南西部のフライブルク市を中心に資料叡集のため渡航した。ドイツ語圏と近接する国々の膨大な伝説を集めたグリム兄弟は、『ドイツ伝説集』の名にふさわしいと彼らが考える伝説を抽出し、それをひとつの伝説集として再構築したが、第二次世界大戦以降、ドイツナショナリズムの問題と新しい神話」運動の関連が指摘され、『ドイツ伝説集』についても、現在は『グリム童話集』研究の一資料としての取り扱いしかされていないのが現状である。渡航先である南西ドイツのフライブルク市のヨハネス・キュンツィヒ・インスティテュートJohannes-Kunzig-Institut fur ostdeutsche Volkskunde in Freiburgにある「フライブルク・ザーゲ資料所」FreiburgefSager Sagenarchivには、『ドイツ伝説集』をはじめとする19世紀から20世紀に編纂された種々の伝説資料が数多くあり、幸運にもグリムの出典研究に必要な資料を見せて頂くことができた。この資料所の責任者であるMichael Prosser-Schell先生と、創立者である故Lutz Rohrich先生の共同研究者であったGertraud Meinel先生のご厚意によって、貴重な資料を写すことをご許可頂いた。この資料所に所属されている研究者たちの専門領域は、ドイツ民俗学であり、『ドイツ伝説集』資料が文学的な研究対象としては重視されていないということを確認した。前述の指摘の通り、ナショナリズム問題による研究の体系化の遅れがその原因であり、わが国において『ドイツ伝説集』を文学的視点、とりわけ説話研究の手法を活用し、その分析を進めることは、今後のグリム研究に寄与するものと思われる。 これらの研究成果の一部は、すでに阪神ドイツ文学会に投稿し掲載予定であるが、さらなる研究結果については2012年度に本研究センターにおいて発表したい。資料の和訳による術語のデータ化については、現在日本の説話研究で使用されている術語及び用語との相違に注意を払って、整理を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画である南西ドイツのフライブルク市のヨハネス・キュンツィヒ・インスティテュートJohannes-Kunzig-Institut fur ostdeutsche Volkskunde in Freiburgにある「フライブルク・ザーゲ資料所」FreiburgefSager Sagenarchivでの資料収集を計画通り実施できた。この資料所の責任者であるMichael Prosser-Schell先生と、創立者である故Lutz Rohrich先生の共同研究者であったGertraud Meinel先生のご厚意によって、貴重な資料を写すことをご許可頂いた。これらの成果の一部については阪神ドイツ文学会発行の『ドイツ文学論攷』第53号に投稿し掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、平成23年に実施した調査資料をもとに、「民衆の信仰対象の変容解明」をテーマとして、伝説や神話における「死体」について取り扱う。ワーグナーの小オペラ「ファールンの鉱山」について、『ワーグナー事典』の執筆者であり、研究代表者の博士課程での指導教官であった谷本慎助教授との継続的な意見交換を行う。『ドイツ伝説集』における異教的・異端的な要素を含む伝承モティーフについて、類話の検討を予定している。なお、その研究成果については、神戸大学国際文化学研究科の異文化研究交流センターでの発表を行い、論文の投稿の準備を進めている。現在、研究代表者が妊娠中のため、体調によっては産休を取得する可能性があり、研究の遂行上遅延の可能性が生じる場合には、研究期間の延長申し出を考えている。
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