本年度は昨年度に続き、越前国東大寺領荘園故地、越中国東大寺領荘園故地、播磨国法隆寺鵤荘故地、筑前国観世音寺寺領故地とその周辺について、主要な条里復原案をもとに条里坪界線と条里呼称等についてGISデータベースを作製し、荘園史料等による土地利用情報の入力作業を進めた。また、越前では近代に地形図が製作される以前に耕地整理が開始され、歴史地理学的研究において主要な資料となる地図・空中写真などの活用が難しいため、明治初期の地引絵図や地籍図をもとに地目や耕地の形状等を復原し、地図データ化を試みた。 さらに、発掘調査報告書等の遺構平面図等をもとに旧河川・建物・耕作関連の遺構についてもGISデータベース化を進めた。併せて、条里遺構が遺存しない地域での条里制施行の可能性の有無を検討するため、遺構検出面の標高・埋没深度等の整理を行ったが、記述の方法等が多様なため、一定の精度を確保するには調査時の資料にあたる必要がある。この他、近世初の土地利用状況把握のため、近世初頭検地帳の内容について入力作業を行っている。 このなかで、荘園史料等に記載された土地についてみると、条里遺構が遺存しない地域や河川の流路となっている箇所もあり、これらの地域に推定される条里界線を一律に作図すると周囲の条里遺構との間に若干の齟齬を生じる場合もある。そこで、福井平野の条里地域を事例に、条里地割の尺度や方位やその地域性についてGISを用いて検討したところ、河川等を境に条里界線の基準等が異なる地区がパッチワーク状に連なるようすがうかがわれた。条里遺構が盆地全域に残る奈良盆地でも分析を試みたが、同様の結果が得られた。 これらのHistorical GISデータベース構築の課題や成果の一部については、日本地理学会研究グループで口頭発表を行ったほか「人文科学とコンピュータ」第18回公開シンポジウムにおいて報告した。
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