本研究の目的は、William Faulkner とZora Neale Hurston の小説を、ジェンダーと所有という視点から考察・比較することにより、同時代を生きた二人の作家の接点と相違点を探ることにある。この白人男性作家と黒人女性作家の比較研究は、近年多文化主義的な視点から進行している20 世紀初頭のアメリカ文学における白人作家と黒人作家の研究に対し、あまり比較されることのない二人の同時代作家の関係を見出す意義を持つ。本研究は、とくにHurstonの代表作 Their Eyes Were Watching Godに伺われる作者の人種意識を同時代の黒人男性をめぐる言説という文脈に置きつつ、作品の精読による分析を通じて明らかにする。黒人女性の主体性と声の獲得の物語として読まれる本作品は、同時代に南部の人種問題を描いたFaulknerの作品に対し、オルタナティヴな黒人女性の在り方を提示するという点で意義を持つ一方、白人文化の影響という観点から議論を起こす要素を備えた作品でもある。この二面性は、作中においては主人公であるJanieと黒人男性、特に夫となる男性たちとの関係において複雑な形を取りながら展開する。Faulknerの作品において人種混交を忌避する南部白人社会の人種意識が中心的問題となる作品が多いのと対照的に、Janieの物語を通じて暗示されるHurstonの人種意識は、白人文化の影響という意味での混血性/雑種性を拒みつつも否定しきれないもおのとして、曖昧複雑な形を取って具現しているのである。
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