24年度は、前年度にひきつづき江戸時代の漢詩人である六如と中島棕隠の詩を中心に作詩作文に言及するものを抽出し、精読して比較考察する作業を行った。特に中島棕隠には、作品数そのものの多さはあるものの、作詩および作文について言及する作品が数多く見られることがわかった。そこには白居易をはじめとする唐宋の詩人の影響が見られたが、明代以降の詩の影響もあると思われる。この点については今回の研究は不十分であり、なお検討の余地があると考えている。 さらにほぼ同時期の江戸漢詩人と比較しても、やはり六如・棕隠らには作詩作文に言及する作品が多く見られた。このことが当時の東西の詩人の意識差を示すのか、あるいは影響を受けた中国の漢詩文作品・思想による違いなのかについては、まだ明確な答えを得られていない。六如と棕隠の作品を抽出して検討対象とする材料を明確にし、数的な違いについて明らかにできたことは意義があると言えるが、内容面についての考察はなお不十分であり、今後の課題としたい。 一方で、六如および中島棕隠の漢詩作品の入力作業も引き続き行い、六如の漢詩作品についてはほぼ入力を終えることができた。ただし、申請者ひとりの作業に留まったため、六如の詩話や棕隠の作品にはなお未入力のものも多い。江戸漢詩や詩話については限定された利用に留まるデータベースが一部備わっているのみであり、より多くの作品をデータベース化する重要性を強く感じている。引き続き作業を行い、成果を公開したいと考えている。
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