本年度は、昨年に引き続きポストコロニアルな視点や韓国人被爆者に焦点を当てた日韓の文学作品のテクストの収集や講読をすすめる一方で、シャーマン・アレクシーやサイモン・J・オーティーズといった北米先住民作家の詩作品解釈・分析のための資料収集や調査を行った。その中でも、アリゾナ州立大学でおこなったオーティーズ氏へのインタヴューと資料調査は、ウラニウム鉱山とアコマ・プエブロ部族の関係を描いたオーティーズ氏の詩集『ファイトバック』を理解・分析するうえでたいへん大きな収穫となった。オーティーズは『ファイトバック』のなかで、アメリカ合衆国の植民地主義政策と冷戦時代の核表象に共通したアポカリプスの概念の転覆を試みており、そのポストコロニアルな視点は、前年に研究した韓水山の『軍艦島』とも多くの共通点をもつことが明らかになった。 また、本年度のもう一つの研究成果として、スポケーン部族とウラニウム鉱山の関係を描いたシャーマン・アレクシーの詩作品に関連した資料収集・調査と、それに基づいた作品解釈・分析があげられる。アレクシー作品におけるウラニウム鉱山と植民地主義との関連性、また核の植民地化に対する抵抗と部族のサバイバルというテーマは、オーティーズや核・原爆問題に言及するその他の北米先住民作家の作品とも共通点が多く、包括的でグローバルな「核文学」体系のなかで、北米先住民文学が重要な役割を担っていることを確認することができた。
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