本研究計画の初年度である2011年度は、東欧亡命文学について多角的に考察するために、「東欧」という地域についての検討を行ってきた。とくに、2011年には、東欧地域研究の第一人者である柴宜弘・東京大学名誉教授を中心とした研究会を企画し、計3回、報告者9名の研究発表の場を設け、東欧地域研究にかんする意見交換を行った(この研究会は申請者が中心となって2009年に行ったシンポジウム「東欧地域研究の現在、そして未来への展望」を継続しているものである)。この研究会での意見交換などを経た後、研究会参加者17名による論集『東欧地域研究のいま-トランステリトリアルな視点から』(山川出版社、近刊予定)が出版されることになった。本論集には、狭義の東欧(ドイツ語圏と旧ソ連圏をのぞいた、ヨーロッパの旧共産圏の国々)のすべての国についての論考が収められているという、東欧研究のなかでも類例のない規模の論集となっている。申請者はこの論集に編者の一人として参加し、さらに、自らも東欧の女性作家についての論考を執筆した。この論文では、東欧女性作家の歴史を中世から丹念に追いかけつつ、旧ユーゴスラヴィア出身の亡命作家ドゥブラヴカ・ウグレシッチを「東欧」の作家であるとみなすことの意味について論じている。また、2012年1月にはシンポジウム「中東欧を「翻訳」する」(於立教大学・1月28日)にコメンテーターとして参加し、ミラン・クンデラの研究翻訳で知られる西永良成・東京外国語大学教授、山本浩司・早稲田大学准教授、柴田元幸・東京大学教授ら、東欧以外を専門とする研究者と意見交換を行った。 これらの研究交流を通して、自らが専門とする旧ユーゴスラヴィア以外の東欧地域の歴史的文化的背景について理解を深め、「東欧」の亡命作家を考察するうえでの問題点を明確にした。
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