昨年度に引き続き、横光利一自筆資料の自筆原稿・書翰・手帳等の翻刻を行った。すでに前年度に資料のデジタル撮影、分類を終わらせ、目録作成も完成し終え、かつ横光家所蔵分については翻刻も終了しているため、本年度は鶴岡市所蔵資料の翻刻を最優先課題とした。そのための研究補助として、昨年度に引き続き、山本美紀氏、渡辺八千代氏に助力してもらった。 鶴岡市所蔵資料の中には、横光文学にとってとりわけ重要な小説「旅愁」の草稿が含まれており、またそれに関連した書翰類などもある。それらの翻刻を4月から7月末までの期間に終了させることを目指した。「旅愁」草稿はとりわけ文章の抹消や挿入が多く、昨年デジタル撮影した資料でもなお判読が不可能であり、翻刻が困難な箇所があった。それらをリスト化して夏期休暇中の8月上旬に研究補助者とともに、鶴岡市に原資料の閲覧に赴いた。リスト化して判読作業に集中したために、すべてではなかったが、予想以上に判読の成果をあげることができた。またその他の自筆資料についても翻刻を進め、9月下旬にはほぼ完成させることができた。 その成果を踏まえ、翻刻記号の統一を前年度終了している横光家所蔵資料も合わせて統一した。とくに抹消痕については、できる限り統一的に見直し、公開後に混乱を来さないように心がけた。この作業はそのままDTP作業に反映し、作業の効率化を図った。さらに11月中旬からは、翻刻資料の内容的な検討に入り、特徴を見出して、解説文に反映させた。DTP作業は、初公開資料であることを重視し、確認を繰り返し行って精度を高め、横光研究に寄与できるようにした。 以上の内容を冊子「横光利一自筆資料集」としてまとめ、2月に刊行した。その際、横光家と鶴岡市と著作権や公開権について話し合い、そこで定められた冊数のみを印刷し公開することとし、本研究を終了した。
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