研究課題/領域番号 |
23820050
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
中丸 禎子 東京理科大学, 理学部・第一部・教養学科, 講師 (50609287)
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キーワード | 北欧文学 / ヨーロッパ文学 / 脚部障碍 / ラーゲルレーヴ / 文明批判 / ジェンダー / 大地母神 / 優生学 |
研究概要 |
平成23年度は、ラーゲルレーヴの自伝的作品『モールバッカ』(l922)における脚部障碍の表象が、どのように障碍者・他者の排除に加担し、またそこからどのようにして離脱する可能性を示しているかを、同時代の優生学思想、福祉国家スウェーデンの断種の歴史、ラーゲルレーヴのドイツ民族主義における受容などと関連づけて研究し、日本独文学会秋季研究大会で発表した。ここでは、研究実施計画で予定したとおり、「女性」と「病/障碍」の関係に着目し、その表象に現れる他者排除のあり方と、女性障碍者の異世界との往還能力を指摘した。 この研究の意義は、ドイツ文学界に対して、ドイツ民族主義という従来あまり顧みられてこなかった分野をカバーし、その中での北欧受容という、申請者ならではの視点を提示した上で、反・反ユダヤ主義・平和主義と民族主義がどのように共存したのかを知らしめることにある。更に、ジェンダー論、文明(批判)論を取り入れることで、「ドイツ文学」「北欧文学」という、言語による文学区分を離脱する可能性を示す。 「北欧文学」の不活性や、近年の「ドイツ文学」研究の行き詰まりの一因は、一つの言語に限定された文学研究のあり方にある。本研究は、脚部障碍、伝説、ジェンダー、優生学など、各国文学に共通するテーマを、ドイツ文学界に身を置く北欧文学者として提示することで、北欧文学のみならず、ドイツ文学・各国文学が、他国語文学とつながり、相互に発展していく可能性を開くものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本独文学会秋季研究発表会で、研究の意義・立場も盛り込んだ口頭発表を行い、聴衆から一定の評価を受けることができた。現在、発表会で得たコメントをもとに、当発表をもとにした論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、口頭発表・投稿論文に対する意見・批判をもとに、ラーゲルレーヴ作品および北欧文学の諸作品における「脚部障碍」論を引き続き発展させていく。研究遂行上のもっとも大きな問題は、現在の日本において、北欧文学研究者は、数が限られており組織化が困難なことである。このため、本研究の成果は、日本の北欧文学や文学研究全体に対して影響を与える機会が少ない。この状況を打開するため、「スタートアップ研究支援」終了後を見越して、ドイツ、ロシア、フランス、日本、中国各国文学の若手研究者と共に、共同研究を発足した。ここでは、「脚部障碍」者のヴァリエーションと捉えられるアンデルセン『人魚姫』を共通テクストとし、そこから論じうる様々なテーマを論じていく。
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