「脚部障碍者」の一例としての「人魚」に着目し、アンデルセン『人魚姫』および「人魚」モチーフに着目した研究を行った。 2012年度前半は、美しい声で船乗りを魅了し遭難させる水辺の魔物(ギリシア神話のセイレーン、ドイツのローレライ、スラブのルサルカ)、人間の男性との結婚によって魂を得る異類婚(ヨーロッパのウンディーネ、メリュジーヌ)、悲恋の表象としての鱗・蛇体(鬼女)など、『人魚姫』と関連付けられる、東西のさまざまな神話・伝説・作品を考察した。その成果は、中丸禎子「人魚姫のメタモルフォーゼ」(石井正己編『子守唄と民話』所収、三弥井書店、2013年3月)として刊行された。 後半は、デンマークおよびアンデルセン研究が盛んなドイツで資料を収集し、『人魚姫』のテクスト分析的解釈を行った。その成果は、中丸禎子「越境する人魚」(北ヨーロッパ学会全国大会、2012年11月)で発表した。また、中丸禎子「アンデルセン『人魚姫』における脚部障碍の表象」(日本独文学会春季研究発表会、2013年5月)で発表が確定している。 『人魚姫』は、従来、①デンマーク文学、②作家の伝記的研究、もしくは、③ドイツ・ロマン主義の人魚モチーフ文学研究の枠組みで研究されてきた。本研究は、『人魚姫』を、①②を超えて、ヨーロッパの人魚モチーフ文学史の枠組みでとらえなおし、「脚部障碍」に着目して分析することで、③に収斂されないアンデルセン文学の特殊性を論じた。この結果、世界中で読まれ、他の作品との影響関係の強い『人魚姫』と、その他者排除のあり方について、新たな解釈を示すことができた。
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