研究課題/領域番号 |
23820053
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鎌田 由美子 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (70609768)
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キーワード | 美術史 / イスラーム美術 / インド / デカン / 絨毯 / 染織 / 東インド会社 / 祇園祭 |
研究概要 |
京都祇園祭で18世紀以降、懸装品として用いられているインド絨毯は世界的にも類例が少ないタイプとされ「京都グループ」と名付けられた。本研究の目的は(1)インドでの現地調査と東インド会社関連の貿易資料を通じてこのタイプのインド絨毯がデカン地方で主に貿易用に生産されたことを明らかにする、(2)これらがどのような国際交易ルートで流通したのかを具体的に明らかにする、(3)このタイプのインド絨毯の国際流通と世界各地での受容のあり方を考察し、商品としての絨毯が国際的に流通することによって生じる意味・機能の変遷を明らかにすることである。今年度は、インドのアーマダバードとジャイプールで調査を行った。アーマダバードのキャリコ美術館にはジャイプール宮殿から移された一群の絨毯があることが1929年の写真資料と1985年の未出版の報告書により明らかだが、実際に、典型的なデカン産の連続壁龕文絨毯の存在を確認した。ジャイプール宮殿博物館では収蔵庫に入って調査した2枚の絨毯は17世紀ラホール産とされているが調査の結果、17世紀後半以降のデカン産絨毯である可能性が高いことが明らかになった。さらに、ジャイプールのアルバート・ホール美術館にデカン産の絹の絨毯があることが判明した。これはデカン産の絨毯が貿易用として海外に輸出されていただけでなく、インド国内のデカン地方以外の場所でも需要があったことを示している。現在まで続く宮殿での使用状況も調査し、デカン産絨毯の国内流通・使用の実態解明の手がかりとなった。また、これまで未出版の「京都グループ」の絨毯が1枚、京都の個人宅に所蔵されており、調査した結果デカン産であることが分かった。この絨毯に関しては1928年以降の国内流通の経路が明らかであるため、日本でのデカン産絨毯の流通を考えるうえで貴重なサンプルである。そのほか、オランダ商館長日記から絨毯に関連する記述を集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、インドや京都でのデカン産絨毯の調査を行って新たな知見を得、また国内外での学会発表を活発に行い、論文の発表・投稿も進めたので順調に進展している。オランダの貿易資料については調査を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
オランダ貿易資料に関しては、専門の先生の助言も得ながら、絨毯に関する言及箇所を地道に集めていく。また、インド南部のハイデラバードのサラール・ジャン博物館とビージャープル考古学博物館、アサル・マハルに現地に残るデカン産絨毯を調査し、デカン美術の文脈からその特徴を考察する。オランダではデカン産絨毯の存在は報告されていないが、17世紀後半の絵画に頻繁に描かれていることを考慮すると現存の可能性も考えられるのでオランダにおいてもインド産染織品の調査を行う。具体的には、アムステルダム国立博物館にあるインド産絨毯数点と、アメロンゲン城にある、京都祇園祭の太子山の所有するデカン産刺繍と同タイプの刺繍を調査する。さらに、日本における絨毯への関心や国内流通を『長崎実録大成』や幕末の写真資料などを使って考察する。
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