本年度の研究では、年度開始時より河北省・北京市を中心とする太行山脈東部の土器を報告書より集成する作業を行った。それと併行して、8月には内蒙古地区の現地調査を行い、前年度までに作成した土器編年の細部を確認する作業を行った。その結果、太行山脈北側の内蒙古自治区中南部を岱海地区、黄河南流両岸地区、陰山地区の3地区に分け、それぞれの併行関係を整理し、大きく5期に区分することができた。太行山脈東部の土器編年は、本年度の資料集成に昨年度の現地調査の結果を踏まえ、結果的にやはり5期に区分した。 次に、研究実施計画では地理情報システムを活用して、自然地理的に見た地域間交流を探る予定であった。これは、太行山脈を越える交流ルートを明らかにすることを目的としていた。内蒙古中南部および山西省についてはすでに遺跡データベースを構築したが、河北省では未だ遺跡情報の詳細が掲載された『中国文物地図集』が未刊行であり、遺跡データベースの構築が難しいことが明らかになった。したがって、太行山脈を通した交流ルートを探る資料として古典籍に記載されたルートを参考にした。さらに、北魏期を主とした太行山脈における石窟に関する地理情報システムを用いた分析が公表されているため、それも合わせて参考にした。その結果、太行山脈の東西を繋ぐ3あるいは4ルートがあることが明らかになった。 10月以降は、太行山脈西部、北部、東部の3地域間の併行関係を整理し、さらに地域間における交流関係を明らかにした。その結果、環太行山脈地区を6期に区分し、次第に地域間交流が活発になる中で交流ルートが増加したことが分かった。その中で、第6期に内蒙古中南部で出現した空三足器が各ルートを通り拡散し、はじめて環太行山脈地区に共通性の高い文化要素が見られるようになり、一つの文化圏が形成されたことが明らかになった。なお、これらの成果は報告書として製本済みである。
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