研究課題/領域番号 |
23820061
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
伊東 剛史 金沢学院大学, 文学部, 講師 (10611080)
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キーワード | 西洋史 / イギリス史 / 都市史 / 文化史 / 動物倫理 |
研究概要 |
本年度は、19世紀イギリスにおける動物福祉の法制化の展開を考察した。まず、動物虐待防止法によって最初に保護されたのが家畜であることに着目し、ロンドンのスミスフィールド市場(家畜市場)を分析対象とした。そして、議会関連史料などの分析に基づき、動物虐待防止法が、普遍的な人道的処遇の理念に基づきながら、実態としては限定された時空間と特定の社会集団を標的にしていたことを明らかにした。そして、動物虐待防止法によって摘発された動物虐待のケースが限定的でありながら、広範囲にわたる影響力をもちえた理由として、家畜虐待が安息日労働、道徳的退廃、伝染病発生などの「諸悪を結ぶ像」として提示されたことにあることを示した。一方、動物虐待防止法は、理念としての普遍性と、実態としての特殊性という矛盾を抱え、国家の統治原則に関わる問題を引き起こした。この問題が最終的に解決されたのは、19世紀半ばに家畜市場が郊外に移転してからのことである。以上のような研究成果を、2011年11月に東京大学で行われた史学会大会・西洋史部会で報告した。 また、動物虐待防止法の設立に尽力した、リチャード・マーティンに焦点をあて、彼の議会内外での活動が、同法に関する世論の形成に大きな影響を与えたことを明らかにした。この成果は、「『マーティン法』の余波-19世紀イギリスにおける動物福祉の法制化と世論形成」として『金沢学院大学紀要-文学・美術社会学編』において発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物虐待防止法の展開について、その成立に尽力した人物に焦点をあてるアプローチと、社会的構造に焦点をあてるアプローチをとりながら、それぞれ成果を出すことができた。後者に関して、史学会で発表した研究報告についても、今後研究論文としてまとめ、学術誌に投稿する予定である。19世紀後半を舞台とする来年度の研究につながるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
来年度前半は、19世紀後半に起きた動物生体解剖反対運動に焦点をあてる。議会での討論と世論の関係や、チャリティ団体の運動に着目し、動物倫理と政治とがいかに密接した関係を持ち、「動物倫理の政治学」と呼ぶべき力学が形成されたのかを解明する。 年度後半には、これまでに明らかにされた論点に基づき、最初に考案した理論的枠組みに適宜修正を施しつつ、全体の議論を総括する。中間的な成果を国内外の研究集会において発表し、議論の整理に役立てる。具体的には、そのひとつとして第11回ヨーロッパ都市史学会大会(8月下旬~9月上旬開催)において、研究報告を行う。課題終了時には、最終的な成果を日本語及び英語にてまとめ、国内外の学術誌に投稿する。
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