本研究は、国立国会図書館所蔵「朝鮮筆記」という写本について、文献学的考証と言語学的検討を実施し、この写本の成立経緯を明らかにするとともに、この写本に収録された、かな書き朝鮮語についての言語学的検討とデータベースの構築を実施することを目的とする。 「朝鮮筆記」は、写本「加模西葛杜加国風説考」の後ろに合綴されているが、この「加模西葛杜加国風説考」には、「朝鮮筆記」のほかに「文化元子年九月廿九日魯斯亜船渡来国王ヨリ我邦エ呈スルノ書」、「或間海防漫記」、「琉球談抄書」など、11種の写本が合綴されている。初年度は、「加模西葛杜加国風説考」をはじめとする9種の写本の関連文献を収集し、照合をおこなった。その結果、それぞれの底本を明かにすることができた。さらに、本写本の筆写者がそれぞれの底本から一部分を抜粋して筆写していることや、筆写者の意図によって改変を加えて筆写されていることが分かった。この成果は、論文として大谷学会に投稿し(2011年12月)、大谷学報に掲載された。(2012年3月)。 最終年度は、「朝鮮筆記」と「朝鮮筆記」の末尾の「朝鮮語右訳下訓」の条に収められている延べ270個のかな書朝鮮語語彙について、言語学的検討をおこなった。これらかな書き朝鮮語は、上向二重母音の単母音化、前舌単母音化していない下向二重母音、また、第2音節「i」の影響により第1音節の後ろに/y/が挿入された例がみられる。また、「・」の非音韻化や語頭複子音の喪失の過渡期的様相を示している。これらの特徴は、おおむね「全一道人」や「朝鮮語訳」など対馬において成立した他の朝鮮語学書類と同様の傾向を示す。この成果は2012年7月28日、29日に韓国ソウルで開かれた第4回訳学書学会国際学術会議で発表をおこない、その後、当学会に論文を投稿し掲載が決定した。(2013年8月発行予定)
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