本研究では、2カ年の研究期間内において3度の現地調査(於合衆国)と国内外における文献調査を行った。その結果、トュールリヴァー部族の部族史研究において、次の2点の成果を挙げた。まず、1)チュバチュラバルとヨクートが、「伝統的」な居住地域から、テホン保留地、トュール・リヴァー保留地へと移住を強要されるに至った歴史的背景を明らかにする事により、最終的に、トュール・リヴァー保留地が、カリフォルニア州中部に居住し、多様な文化的背景を持つ複数の先住民部族が共存する土地となったことを歴史的に立証した。次に、2)複数部族による共存関係は、トュールリヴァー保留地の先住民が、トュール・リヴァー部族として政治的、社会的、言語的な同一アイデンティティを形成するのを助長する一方で、保留地内における、大規模家畜所有者と小規模家畜所有者間における経済格差を生み出した過程を歴史的に立証した。 以上の部族組織の再構築と部族内経済格差を背景としたトュール・リヴァー部族の抱える多様なアイデンティティの構造は、1934年に成立したインディアン再組織法の適用過程の中であぶり出された。よって、本研究があげた1)2)の成果は、トュール・リヴァー部族の設立過程を明らかにすると同時に、同部族が、現代の経済発展と部族自治の基礎となる再組織法型部族政府(トュールリヴァー部族政府)を設立するに至った歴史的背景を提示し、再組織法自体の理念と現実の矛盾を検証する再組織法研究に、一つの事例を提示することとなった。
|