研究課題/領域番号 |
23820070
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 有希子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, ポストドクトラルフェロー (20609151)
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キーワード | 新印象派 / 補色 / 均衡 / 神経生理学 / 民間療法 / 衛生 / 同毒療法 / 色彩療法 |
研究概要 |
本研究【補色調和の美学と倫理:西欧モダニストの「均衡」言説と生活様式】は、19世紀後半から20世紀前半にかけて隆盛した西欧モダニズム画家(新印象派、表現主義、フォーヴ、抽象画家ら)が称揚した補色調和の美学を分析し、その美学が彼らの生活倫理、すなわち医療や衛生などの日常習慣をどのように規定していたかを明らかにすることを目指している。「補色が調和的である」という言説は、三視神経を均等に使うことを快と考えたヘルムホルツら神経心理学者の見解を起源としている。しかしこの「均衡 equilibrium」の要請は美学の領域に留まらず、医療、衛生などの生活倫理を貫いていた。本研究は、モダニズム芸術をケーススタディとし、美学と生活倫理との協働を詳らかにすることで、アートワールドの議論に偏りがちな日本の美学美術史研究に一石を投じることを企図している。 平成23年度の研究実績は主に、研究代表者の美学会全国大会における発表「美と健康の接近:フランス新印象派の<民間療法>」と単著『新印象派のプラグマティズム:労働・衛生・医療』(三元社、2012年3月刊行済み)である。特に後者の単著の出版は、科研内定当初は予定していなかった大きな成果である。これは研究代表者のアメリカ合衆国での博士論文Color, Hygiene and Body Politics:French Neo-Impressionist Theories of Vision and Volition, 1870-1915を和訳し、加筆訂正下論考であり、新印象派運動と衛生療法とのつながりを論じた日本国内で初めての論考である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたフォーヴや表現主義の研究は立ち遅れているが、内定当初予定していなかった単著『新印象派のプラグマティズム:労働・衛生・医療』(三元社、2012年3月)の刊行により、新印象派と衛生療法との関係性を詳らかにした研究を、研究者のみならず広く一般の読者に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度にできなかったフォーヴと表現主義の生活様式に関する研究を中心に進めていく。研究代表者は新印象派とキュビスムの研究をいままで進めてきたが、フォーヴと表現主義に関しては依然として十分には研究していないため、まずは一次資料の収集を国内外で図り、随時学会誌等に発表し、将来全体的成果を著書として出版する準備を進めたい。
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