(1)昨年度から引き続き、『方丈記』の作品の表現と構想に関する分析を進め、論文「「世の不思議」への視線─『方丈記』の記憶と文学性─」(国文学研究資料館創立40周年特別展示「鴨長明とその時代 方丈記800年記念」図録、2012年5月)を発表した。本論文では、『方丈記』における災害や事件の記録が絵画的なイメージを付与する表現を積極的に行い、それが同時代の仏教説話画の享受と深く結び付くことを解明した。 (2)『無名抄』の作品研究の成果として、「鴨長明の和歌観─『無名抄』「式部赤染勝劣事」「近代歌躰」から─」と題し、中世文学会秋季大会(2012年10月)で口頭発表を行った。研究史において最も注目されてきた「近代歌躰」の章段を直前の「式部赤染勝劣事」と連続させて読み直し、この章段の「幽玄」の語が、新古今時代とそれ以前の和歌を『古今和歌集』のもとに位置付け、両者の対立を解消しようとする意図を持っていることを明らかにした。日本文学史・文化史において大きな水脈を為す「幽玄」の語を、和歌史を叙述するための役割的側面から捉え返した斬新な論であり、『無名抄』という作品生成の必然性を解明する作品研究の本質に切り込んだものである。本発表をもとにした同題の論文は『中世文学』58号(2013年6月)に掲載予定である。 (3)研究の成果をわかりやすく一般に発信することを目指し、大学広報誌やHPに、積極的に小稿を掲載した。「NDSU Collection〔14〕 黒川文庫『無名抄』」(ノートルダム清心女子大学Bulletin176号、2012年5月)は『無名抄』伝本研究の一つの成果であり、「古典の現在性─『方丈記』800年に思う─」(同大学日本語日本文学科リレーエッセイ108回、2012年10月)では、本年度が『方丈記』成立800年記念であることと連動し、『方丈記』を軸として古典作品の受容の本質を描き出した。
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