平成24年度に実施した研究は主に,麗水(よす)地域のアクセント記述及びその体系の解明を中心とした。前年度に引き続き,麗水突山島(ドルサンド)方言のアクセント記述を行い,地域差はないことが解明できた。また,複合名詞のアクセント規則は,一部の組み合わせ以外は,「X+Y=X」の規則であることを明らかにした。用言のアクセントは,前年度の予備調査では3つの型が対立する体系であると捉えていたが,より詳しい調査研究により,名詞と同様に2つの型が対立を成していることが分かった。さらに,活用形のアクセント特徴は,慶尚道諸方言におけるそれと非常に緊密な関係にあることが明らかになった。特に,3つの型が対立する慶尚道諸方言と対照することにより,突山方言におけるアクセント合流の仕方は,アクセント性質(語声調・アクセント核)が反映されていることが分かった。これにより,慶尚道諸方言以外にも「一つの体系内に語声調とアクセント核が共に存在している」方言が存在し,この前提は韓国語諸方言においては一般化できると考えられ,アクセント理論にも大きく貢献できるものだと評価できる。 また,麗水市内の名詞のアクセント調査を行い,3つの型の区別があるとする先行研究とは異なり,2つの型が対立していると捉えている。ただし,突山方言とは具体的な音調の現れ方が異なっており,地域差が見られる。 麗水の別の地域の蓋島(けど)における名詞のアクセント調査を行った。まだ,体系を解明できるほどのデータが集まらず,アクセント特徴を記述しきれないものの,前述の2つの地域とは所属語彙および,音調型もかなり異なっていることが確認できた。これによりアクセント合流の仕方が異なる可能性がある。 その他,全羅南道の求礼(くれ)地域の名詞のアクセント実地調査を行い,アクセント特徴に地域差が見られることが確認できた。今後の詳しい調査が急がれる。
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