研究課題/領域番号 |
23830002
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鄭 明政 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教 (00615099)
|
キーワード | 生存権 / 司法違憲審査 / 台湾大法官解釈 / 立法裁量 / 憲法委託 / 最大限の充実原理 / 弱者のエンパワーメント / 実効的な権利救済 |
研究概要 |
本研究は司法による実効的な救済を重視する立場から、いわゆる「人格自立論」に基づく生存権理論を検証するとともに、自律・自立を過剰に強調した「強い人間像」に立脚した人権論の問題点を指摘することにより、弱者に対する権利の実効的救済を可能にする司法審査の方法を模索していく。そのために、日米台の判例実務・理論を分析し、研究対象各国の社会的背景の考察を行い、整合的に理解することにより格差拡大の現代社会に対応しうる生存権理論を再構成し、実効的な権利保障及び実際の憲法訴訟に資することを試みる。平成23年度、上記の目的を達成するための具体的な実績は以下の通りである。 (1)生存権の権利主体を拡大し、「弱者のエンパワーメント」の視点から従来の「平等権」や「人格的自律論」を批判し、社会的弱者を包摂しうる人権保障のありかたを主張した。それと関連する論文一「日本における高齢者医療制度の変遷―憲法学の視点から」を平成23年11月に台湾・国立台中科技大学で開催された日本研究国際シンポジウムで発表した。 (2)立法不作為の憲法訴訟を通して、立法府と司法府との間あるいは国家と国民との間の「憲法対話」により生存権の権利保障がされるかを実証的に調査するため、平成23年11月及び24年2月に台湾とアメリカへ赴き、研究資料を収集するほかに、専門家・憲法学者(生存権の立法不作為の可能性を積極的に解した周宗憲教授等)と意見交換を行った。 (3)最近の判例において、時間がたつについて、国内外の社会事情の変化や国民意識を踏まえ、違憲審査の厳格度を高める判例が見られる。それは、広汎な立法裁量を強調する先例判決を変更する一つの手がかりでもあると思うから、平成23年12月に北海道大学公法研究会で「国公法・堀越事件控訴審判決評釈」を報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、生存権の権利主体の拡大、社会弱者を包摂しうる人権保障のあり方の模索に関する理論的基盤を構築する作業を先行させる。同時に、後半からは、実地調査を含む具体的な司法制度、福祉保障の実態調査を並行させ、理論的仮説の精緻化を図る。そのために、平成23年11月及び24年2月に台湾とアメリカへ赴き、調査と報告を行い、一定の成果がでた。したがって、ほぼ当初の計画の通り順調に進展していく。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)本年度はさらに日米台の細かな法制度・司法審査制度の異同や司法審査のありかたなどの研究結果を発表・公刊することを目指する。とりわけ、本研究が主張した社会権の「段階的本質」の特徴を明らかにし、生存権の内容及び規範の多層化を実証する。(2)憲法秩序の形成に関する考察を行う。すなわち、「統治システムにおける違憲審査機能」の重要性を重視し、司法権だけでなく、司法権と政治部門との協同的な権利保障の方法を模索する。(3)2012年8月に北海道大学公法研究会で、日米台の社会権や違憲審査制度に専門する各国の研究者を招聘し、「格差社会における社会権保障の現状と問題点」という国際シンポジウムを開催する予定である。(4)2012年5月から北大法学論叢で論文を公刊する予定である。台湾及び日本の学会や研究会も積極的に出席し、研究結果を国内外へ広く発信していく。
|