これまでの考察を経て、社会権の「段階的本質」の特徴を明らかにして、生存権の内容および規範の多層化を論証し、それぞれの権利領域を確認し、立法府の判断の尊重といった民主的正当性または正統性の問題を克服しつつ生存権の実効的救済を可能にする司法のありかたを探る。これに関しては、具体的な研究実績は以下のようである。 1、2012年8月24日に北海道大学公法研究会において、「台湾における社会権保障の現状と問題点」というシンポジウムを企画した。台湾、日本、およびアメリカ憲法学を専門とする研究者に、「台湾及び日本の憲法体系に関する一検証」、「違憲審査における立法形成の空間」、「格差社会における国家による貧困者の救助」という報告をしていただいた。報告及び質疑・討論の記録について、北大法学論集第63巻第5号(2013年1月)に掲載した。 2、2012年5月11日に北海大学公法研究会において、生活保護開始決定義務づけ等請求控訴事件(福岡高裁2011年11月15日判決)判例評釈」を報告し、外国人の生存権保障の「準用」可能性を示した。 3、2012年12月8日に、台湾の政治大学が主催した中華民国国際法学会において「國際人權條約中有關社會權保障的裁判適用─從日本外國人年金訴訟看國内法院援引國際人權條約的可能性」を報告し、国内裁判所の引用の可能性を検討した。 4、猿払基準と公務員の政治的活動の自由の検討をとおして、付随的違憲審査制の問題を指摘した。鄭明政「從日本限制公務員政治活動之違憲審査談近時判例的新動向」『許志雄教授六秩華誕祝壽論文集(仮題)』2013年6月出版する予定。 5、2012年5月から、研究結果の知見を博士論文の公刊と合わせて、北大法学論集で「司法による生存権の保障及び権利促進の可能性」を連載しつづける。
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