本研究の目的は、対抗要件否認規定(破産法第164条)の適用範囲を画定することにある。 かかる研究目的達成のため、平成24年度においては、1838年フランス商法典448条2項が譲渡人破産直前の(不動産)譲渡登記を無効の対象としないことの分析を行い、その結果、以下のような知見を得た。すなわち、フランスにおいては不動産譲渡は私人の合意のみによっては完成せず、ノテールが介在しなければ譲渡できない。更に対抗要件具備に関しても当事者が行うことはできず、ノテールが行うとされる。そのため、ノテールの怠慢という例外的場合を除き、不動産譲渡の際に譲渡行為と登記との間に時間的ギャップが生じることは予定されず、従って、448条2項を不動産譲渡に適用する必要性は薄い。更に、448条2項が本来適用を予定する担保の対抗要件具備行為についても、その分析過程で従来指摘されることのなかった次のような知見を得た。すなわち、フランス民法典1328条は、私文書が第三者に対して対抗できるためには原則として証書を登録することにより確定日付を得なければならないと定めているから、担保設定契約書を契約当事者が作成する場合には、当該契約書を登録して確定日付を得なければ、証書上の担保設定日を第三者、すなわち破産管財人に対して対抗できない。このことが、担保設定行為の前日付を困難にするとともに、破産管財人による担保設定行為の無効を容易にしており、相対的に対抗要件具備行為の無効について定める448条2項の適用範囲を狭めていたものと理解できる。 フランス法が当初より破産直前の権利移転に関する対抗要件具備行為にアメリカ法ほど厳しい態度をとらず、また、1967年法改正以降債務者倒産直前の対抗要件具備行為についても厳しい態度をとっていないことの理由はフランス不動産登記制度及びその周辺にあるフランス特有の諸制度が作用しているとの結論に至った。
|