研究課題
本研究は、先進工業国のデモクラシーにおいて攻撃的戦争(aggressive war)が起こる条件を、危機が高まった状態で実際に開戦判断が下されるか否かの時点に着目して導き出すことを目的としている。博士論文での申請者の研究からは、安定したデモクラシーにおいては軍が攻撃的戦争を主導した例は見当たらず、むしろ文民(シビリアン)の政治指導者が下す開戦決定に対して反対した事例が少なくないことが分かっている。本研究は博士論文のフォローアップに当たる研究のため、まずは博士論文の刊行準備の過程で追加調査を行うことから研究を始めた。研究の対象としたのは、イスラエルの第二次レバノン戦争以前に、小規模ではあるが戦争の検討をした時期、バラク政権やシャロン政権期の政軍関係である。その結果、第二次レバノン戦争開戦の数年前に、両政権と軍の間に撤退やその態様にかかわる意見の食い違いが生じていたことが分かった。その意見の食い違いの深層では、政治家には国民世論を気にする人気とりのインセンティブがあり、軍はより本質的な和平のための外交交渉を求めていたことが分かった。これらの結果は、本年中に岩波書店から出版予定の『シビリアンの戦争-デモクラシーが攻撃的になるとき』に反映させた。アメリカでの出張研究を行い、NPO団体などにインタビューを行い、また日本では入手が困難なアメリカやイスラエルに関する各種文献を閲覧ないし購入した。3月には民主化と資本主義経済の進展が国民の軍や戦争に対する態度をどのように変えているかという関心のもと、シンガポールへ出張研究を行い、シンガポール国立大学のインド人研究者に有益な意見・助言をいただいた。結果的に、まだ国家間での比較の結果が出るには至っていないが、24年度中には確実な研究成果を出せる見込みである。
3: やや遅れている
研究に使える時間が事実上限られていたため、多少の遅れが出ていたが、後半から特に進捗してきている。そのため、24年度中には確実な研究成果を出すことができると見込まれる。
研究内容については、シビリアンの市民社会が同じ民主主義国や先進工業国の仲間入りをした国々でもどのように異なるのかという難しい問題が生じており、殊にアジアの急成長してきている国々についての知見を深める必要が生じているため、今後も英米だけでなくシンガポールなどで研究している多様な国籍の研究者に助言を引き続き仰ぐこととする。海外での出張研究は、現在に近い出来事を撮り歩かっている関係上生の声が聞けるという意味で非常に重要であるので、その予定を確保するために努力したい。また自費で収集した文献の整理・分析も、今年度からはスピードアップして処理を進めたい。
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Policy Issue(オンライン)東京大学政策ビジョン研究センター
Policy Brief, The German Marshall Fund of the United States, Asia Program
巻: March 2012 ページ: 1-10