研究課題/領域番号 |
23830021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荻野 亮吾 東京大学, 大学院・教育学研究科, 特任助教 (50609948)
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キーワード | 市町村合併 / 中間支援者 / 公民館 / 成人学習 / 社会的ネットワーク / 地域活動 / ナラティヴ / 中間集団 |
研究概要 |
本研究の目的は、市町村合併後に、地方部の都市に起こった生活環境の変化を前提としつつ、新たなコミュニティの形成に向けた生涯学習の役割を明らかにすることにある。具体的な計画は、(a)公民館や集会施設を中心とした「場」の機能の再評価、(b)市町村合併を経て再編が進む、地域諸団体についての調査・分析、(c)地域住民の関係を取り結ぶコーディネーターや中間支援者の役割の理論化、(d)共通の規範や文化を創出の過程について、ナラティヴ・アプローチに基づいた分析を行う予定である。 平成23年度は、3つの点から研究を進めた。第1に、合併市である大分県佐伯市、長野県飯田市において、昨年度までの調査データを整理するとともに継続調査を実施した。具体的には、(1)コーディネーターや公民館主事といった中間支援者の活動、(2)地域の諸団体と公民館との関係について調査を進めた。これらの点については、日本教育経営学会、日本公民館学会での共同研究報告、日本社会教育学会でのラウンドテーブルの開催、飯田市公民館大会のシンポジウムのコーディネートなどを通じて、学会・社会へのフィードバックを試みた。 第2に、社会的ネットワークの形成に中間集団が果たす役割についてJGSS2003の二次分析を行い、機能的な集団やボランティア団体だけでなく、サークルやグループへの所属の重要性を明らかにした。さらに、社会的ネットワークと地域活動の関連性について別のデータを用いて分析を試みた。 第3に、ナラティヴを中心とした成人学習理論の整理を行った。具体的には、成人学習へのナラティヴ・アプローチの訳出を行い、成人の自律性の涵養にナラティヴが有する意義と、ナラティヴ・アプローチの事例分析への応用可能性についてそれぞれ研究を進めた。 平成24年度は、以上の成果を取りまとめるとともに、研究成果の還元と、地域政策への提言を柱として研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度は、研究計画の柱である(1)合併市での継続調査の実施と分析、(2)ナラティヴを通じた成人学習理論の整理について、計画通りに研究を進めることができた。加えて、(3)中間集団を通じた社会的ネットワークの形成について、大規模社会調査の二次分析を行い、コミュニティの構造的側面に生涯学習が与える影響について考察を行うことができた。(2)で明らかになった認知的側面と合わせて、生涯学習によるコミュニティの再形成を描くための見通しが立ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度も(1)合併市の継続調査、(2)学習理論の整理、(3)大規模調査の分析の3つを基本的な柱として研究を継続する予定である。加えて、(4)研究成果を還元し、対話と議論を促進するアクション・リサーチの一環として、調査結果を中間支援者や、リーダー層、地域住民にフィード・バックし、そこで得た知見や意見を再び研究へと反映する循環的な研究手法を採る。具体的には、研修会・養成講座や住民の集会への参加、ワークショップの実施を想定している。 さらに、(5)事例研究に基づいた地域自治についての理論化、と施策への提言も行いたい。各自治体のコミュニティと生涯学習に関する施策の有効性や妥当性を、社会的ネットワークの広がりや文化・規範の形成という点から評価し、自治体の合併の状況や市町村規模、コミュニティの状況に応じた施策を実施するためのポイントをまとめる。
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