研究課題/領域番号 |
23830022
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
相澤 美智子 一橋大学, 大学院・法学研究科, 講師 (50334264)
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キーワード | 障害者 / 差別禁止法 / 間接差別 / 合理的便宜 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本で障害者差別禁止法を制定し、障害を理由とする雇用差別を禁止するにあたり、1)使用者に障害者に対する合理的便宜の供与を義務づけるだけにとどめるのか、それとも、2)合理的便宜の供与を義務づけたうえで、なお障害者に対する間接差別を禁止することまで踏み込むのか、を検討することにある。本研究の考察対象であるアメリカの障害者差別禁止法(以下、ADA)は、障害者に対し合理的便宜を供与しないことが差別にあたると規定しており、間接差別は明文では禁止されていない。 平成23年度は、1964年公民権法第7編(以下、第7編)に関する研究のまとめにあたる単著の原稿の補正および校正を行い、出版を完了させることができた。これは、本研究の土台が完成したという意義を有する。なぜならば、第7編は、人種・皮膚の色・宗教・性・出身国を理由とする雇用上の差別を禁止する法律ではあるが、アメリカ(連邦レベル)における雇用差別禁止法の根幹をなしており、連邦最高裁による同編の解釈(禁止される差別類型および立証責任の在り方)は、ADAを含む、その他の連邦レベルの雇用差別禁止法の下でも承認・援用されるにいたっているからである。したがって、第7編に関する研究は本研究の前提となるものであり、これを一書にまとめることができたのは大きな成果であった。 単著の校正の傍らで、ADAに関するアメリカの論文の精読を行い、合理的便宜供与および間接差別(アメリカ法の用語では、差別的効果という)の関係に関する学説の整理を開始した。学説は、総じて、次のように論じていることが分かってきた。すなわち、合理的便宜という概念は、裁判所をして使用者のコストとは無関係に差別を認定せしめる(すなわち、合理的便宜を供与しないことが差別にあたる)という概念であり、コスト的な負担がかかるという使用者側からの立証があれば差別が阻却されるという間接差別の概念とは異なる、ということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画書に記載した2点(1.本研究の土台をなす、第7編に関する研究をまとめた単著の原稿の補正・校正を行い、出版を完了させる、2.ADAに関するアメリカの主要な論文を精読し、合理的便宜供与と間接差別の関係性に関する学説の整理を行う)を、ほぼ達成しているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後(平成24年度)は、ADAに関する最近の学説の分析を行いたい。とりわけ、ADAの下で間接差別が認定された事例が存在するのか否かを明らかにしたい。また、ADAの運用が後退している(すなわち、ADA違反の訴えが棄却されている)といわれて久しいが、障害者差別を禁止するということについてのアメリカの社会政治的・社会経済的動向についても考察を深めたいと思っており、これについて、アメリカの研究者にインタビューを行いたいと考えている。
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