「Robust Virtual Implementation」が研究テーマである。本研究はメカニズム・デザインといわれる分野での貢献を果たした。メカニズム・デザインとは、どのような社会選択ルールが、各プレイヤーのインセンティヴと整合的に遂行できるかを明らかにすることを主目的とする。より具体的には、メカニズムを設計し、そのメカニズム内でプレイヤーにメッセージの報告を要求し、最終的に各プレイヤーが真の情報を報告する条件を探ることを最も重要な課題としている。プレイヤーの持ちうる私的情報の集まりをタイプ空間と呼び、一般的には、このタイプ空間はプレイヤー間で共有知識であると仮定される。この共有知識の仮定は非常に強いものであることが知られており、既存研究がどれほどこの仮定に依存しているかを明らかにすることは非常に重要である。もし設計されたメカニズムが共有知識の仮定に対して頑健性を示す場合、そのようなメカニズムは情報頑健性を満たすという。そのような遂行概念を「Robust Implementation」と呼ぶ。さらに、ルールを厳密に遂行するのではなく、近似的に(高い確率で)遂行するケースを本研究では考えた。それゆえに「Robust Virtual Implementation」である。 この頑健近似遂行のための必要十分条件は、「誘因両立性」と「加測性」とになる。関連した研究であるBergemann-Morris(2009)は、これら二つの条件が非常に厳しい制約になることを示した。本研究では、Bergemann-Morrisが提案した情報頑健性をほんの少しだけ緩めると、誘因両立性は依然として強い制約であり続けるが、他方、加測性が制約となることは非常に稀であることを示せた。私の貢献は、ほんの少し弱い情報頑健性を提案することによって、遂行可能性が格段に広がることを明らかにしたことである。
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