米国の学説では、初期段階における肯定派と否定派の議論を経て、現代的には会社支配権取引の取引態様によって、フェアネス・オピニオンの意義が異なるとの理解が示されている。他方で、米国での主たるフェアネス・オピニオンの発行主体である投資銀行は、評価上の裁量及び株主との利益相反的なインセンティブ構造から、当該取引の成立に有利な意見を作成することへのインセンティブが懸念されている。これらの解決につき、セカンドオピニオンの取得や裁判所ないしは自主規制機関によるガイドラインの作成による規律付けが示されている。我が国では、近時会社支配権取引における取締役の責任を追及した事例において、フェアネス・オピニオンの取得が、取締役の責任を否定する根拠の一部として用いられている。即ち、我が国の裁判所は、学説の示す通り取締役に直接に株主に対する直接の義務ないしは責任を負わせているかは明確ではないが、少なくとも会社支配権取引において、公正な価格決定プロセスの履践を要求していると思われ、フェアネス・オピニオンはこれを支える一要素として理解されていると評価できる。しかしながら、現在の裁判所の対応は、米国において指摘される、正・負の評価をしているとはいえず、フェアネス・オピニオンが有する準規範性を、裁判規範に高めるまでの条件を示しているとまでは言えないことが明らかとなった。従って、本研究により、意見を提供する専門家の意見の妥当性審査と独立性の確保が必要とされるという課題を残しながらも、取締役の責任を否定するための装置としてのフェアネス・オピニオンは我が国の取締役責任の法理に照らしても、一応は有効であると評価できることが、明らかとなったといえる。
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