プロソディーの表出面の発達を検証するために、前年度に引き続き、半構造化された場面におけるASD児の発話を記録し、その特徴を統制群と比較した。6歳~10歳のASD児および定型発達児が参加した。実験者が与える知識問題に対する、対象児の回答を記録した。分析項目として、(1)音声における情報の不確定性に関わるプロソディー(ピッチの上昇、ポーズの挿入、遅延、言い淀み)の有無、(2)正答率、また(3)自身の確信度にかんする内観を取り上げ、これらの関係を群間で比較した。その結果、自閉症群では、プロソディーの使用と正答率との間に相関がみられたものの、プロソディーの使用と内観との間には相関がないことが明らかになった。 プロソディーの理解面の発達を検証する課題として、前年度に引き続き、音声聴覚刺激に基づいて、対象物に目を向けるまでの反応を、プロソディーを実験刺激とした状況下で検証した。小学校低学年のASD児、定型発達児が参加した。眼球運動追跡装置(Tobii Eye tracker T120)を備えたモニタに複数の画像(顔、モノ)を呈示した。言語内容およびプロソディーに感情価を加えた音声聴覚刺激に基づき、対象画像を特定するまでの反応時間および注視時間を記録・分析した。結果として、自閉症児は音声聴取後に感情プロソディーに基づいて対象物(顔、モノともに)を注視する反応がないこと、また、一方でより遅延的な指さしでの回答においては、感情プロソディーから顔表情をマッチングしていることが明らかになった。また、言語内容の感情価が常に中立で、プロソディーのみに注意を向ける条件下では、自閉症群においても、音声聴取後に対象に視線を定位することが明らかになった。
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