変動的な現代社会において高度な専門職としての教師教育を実現することが世界的に喫緊の課題となっている。本研究の目的はフィンランドと日本の教師教育を実践研究者という視点から比較考察することである。日本については高度専門職養成という視点から主に2008年度より制度化された教職大学院を研究対象としている。 「実践研究者としての教師」論とは1960年代から70年代にかけてのイギリスにおける教師主体の実践過程を重視したカリキュラム開発運動をステンハウスが理論付けて提唱したものである。実践研究者としての教師教育カリキュラムについて考察する際には、ショーンによって提唱された「技術的熟達者」と「省察的実践家」という2つのアプローチをカリキュラム分析の指標として考察を行った。分析の結果、従来の学部段階の教員養成カリキュラムと比較して実習期間も長く設定されているのであるが、専門家像としては省察的実践家像というよりは、技術的熟達者像を想定したカリキュラムが支配的である。一方で、希有な事例として養成すべき専門家像として省察的実践家像を掲げ、個人内の実践認識の再構成を核に据えた主観性を重視した実践研究を中心とした教師教育カリキュラムも存在している。フィンランドにおける教員養成カリキュラムは技術的熟達者と省察的実践家の両者の専門家像の性格を併せ持つような形態で展開されている。 生涯にわたって探究的な姿勢で専門性の向上に努める実践研究者としての教師の礎を築く教育のためには、実践認識そのものの再構成を主体的におこなう経験を保証することが必要不可欠であることが考えられ、そのための教師教育に携わる教員の職能開発が今後の課題として示された。
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