本研究の目的は,個別実験及び縦断的な観察を通して,幼児期における子どもの時間意識の発達プロセスを明らかにすることであった。その際,保育・教育現場の実践的視点をふまえ,特に時間意識の「社会的機能」に注目した。その研究成果は,主に次の2点にまとめられる。 (1)新たに考案した「落し物課題(子どもが落し物をしてしまう状況をつくり,子どもが過去を振り返りながらどこに落としてきたかを思い出させる課題)」を用いて,子どもが実際にどのように過去を振り返るのか明らかにした。その結果,①落し物を探すといった過去を思い出す必要性のある状況では,先行研究で考えられていたよりも早くから正確に想起できること,②未来に備えた「予防」プランを言語的に説明できるようになるのは就学前まで難しいこと等が明らかとなった。 (2)自己の未来を想定することと他者の未来を想定することの間には,どのような違いがみられるのかを明らかにするために,従来のトリップ課題(未来に必要なものをいくつかのアイテムの中から選択させる課題)を応用・改良した実験をおこなった。具体的には次の2条件(①自分がそのような未来の場面へ行くことを想定し,そこへどのような物をもっていくかをたずねた,②他者がそのような未来の場面へ行くと仮定し,そこへそのような物をもっていった方がいいと思うかをたずねた)を設け,その結果に違いがみられるかどうかを明らかにした。現在,結果をまとめ,論文を執筆する作業に入っている。また,この実験結果を土台に,子どものペアを対象にした実験をおこなっている過程にある。
|