研究課題/領域番号 |
23830035
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西村 邦行 京都大学, 法学研究科, 研究員 (70612274)
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キーワード | 国際政治学 / 政治思想 / 戦後 / 日本 / E・H・カー / 現実主義 |
研究概要 |
英米国際政治理論の受容が日本の国際政治学形成に与えた影響を探る本研究計画の内、本年度は特に、国際政治学の祖E・H・カーの著作がどのように読まれたかを検討した。具体的には、戦中から1950年代初頭を焦点に、同時代を生きた研究者の回顧録や当時の学術・総合雑誌の論文・座談会記録・書評などを読み解いた。 現代の国際政治学において、カーは、『危機の二〇年』(1939)の著者として知られている。しかし、日本において、彼が最初に注目を浴びたのは、むしろその続編にあたる『平和の条件』(1942)を通じてであり、その読者も、社会学者の清水幾太郎や経済学者の都留重人など、政治学外の知識人が主であった。そして、同書中、彼らの関心を喚起したのは、西欧自由民主主義の没落を描き出した前半部であった。カーは、近代西欧の批判者として受容され始めたのである。この点は、次に受容された彼の書が、西欧へのソ連の挑戦を描いた『西欧を衝くソ連』(1946)であったことからも確認できる。 1950年ころに『危機の二〇年』への言及を開始した政治学者たちも、こうした視点からカーを読んでいた。そのことは、日本政治学会会誌『年報政治学』初号に掲載された座談会の記録において窺われるところであり、ここで同書を取り上げた蝋山政道や岡義武といった当時の指導的政治学者たちは、カーを通じて国民国家以後の世界を展望していた。英米で現実主義者と理解されていたカーは、日本ではむしろその超克者と捉えられていたのであり、同じ理論家といえども、文脈の違いに応じて、その解釈のされ方は大きく異なっていた。 以上の議論は、特に、2011年11月につくば国際会議場で行われた日本国際政治学会年次大会において発表の機会を得た。また、関連する内容について、2012年6月に東京大学の研究会で報告することが決まっている。なお、本課題の着想を生んだ直近の研究を著書として取りまとめる中でも、本研究の成果を一部反映させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りに学会報告を行い、学術誌に投稿できる論文を書き上げた。元の計画にあった研究会報告と資料調査は実施していないが、これは状況の変化に応じて効率化を図った結果である。ここでいう状況の変化とは、現論文草稿を2012年6月に東京大学で報告する機会を得たこと、国際政治学会会誌『国際政治』175号で本論文を投稿するのに最適な特集「歴史的文脈の中の国際政治理論」が組まれると判明したことである。研究会については、開催日が2012年3月31日で、所属移転の関係から参加できなかったこともあるが、資料調査については、同特集の投稿期限が10月末日であること、2012年2月に予定していた調査と2012年夏予定の調査では、対象資料が大きく重なることを考えて、二度の調査を後者に一元化する方が適当と考えた。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、ハンス・モーゲンソーやハロルド・ニコルソンといった他の主要な英米理論家の受容へと検討を進めていく。今年度の成果に鑑みる限り、文献の読解など実質的な面での研究遂行については、現時点で特別な困難や問題は見つかっておらず、上の項目11に記した変更の結果、新たに必要となった資料の購入費も捻出できるなど、状況は、全体として、むしろ当初予定していたよりも良い。ただ、やはり11記載の通り、所属・職分が変更になったこともあり、計画通りに夏に論文の発表を行うことは困難と予想される。この点については、現在すでに、冬から春にかけての学会・研究会で報告することを検討し始めている。
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