研究概要 |
本研究の貢献は,第一に,鞍関数という新たな概念を提案したことである.鞍関数をもつゲームとは,いわば,1人の敵とそれ以外の同一利害のプレイヤーたちからなるゲームと戦略的に同等なゲームである.そのような構造を持つゲームとして,経済主体が準線形効用関数をもつArrow=Debreu 型の市場ゲーム,混雑ゲームにおいて課金を試みるプレイヤーなどがあることを示した. 第二に,鞍関数を用いてナッシュ均衡であるための十分条件を与えたことである.この条件は von Stengel=Koller (1997, GEB) が与えた十分条件に対する一般化になっている.この一般化した条件は次に述べる頑健な均衡を求めるために重要な役割を果たした. 第三に,鞍関数を用いて Kajii and Morris (1997, Econometrica) の意味で非完備情報に対して頑健であることを示したことである.あるゲームにおける理論予測が非完備情報に対して頑健であるとは,そのゲームに近いどんな非完備情報ゲームもその理論予測に近い均衡があることである.すなわち,頑健な理論予測ならば,実際が多少の完備情報から離れた情報構造をしていても,大きく結果が変わらないことを意味する.本研究は,鞍関数の鞍点における値と等しくなるような相関均衡の集合は非完備情報に対して頑健であることを示した.また,この条件は,Morris=Ui (2005,JET) で与えた十分条件より有用な場合があることを示した. 以上の成果を"Saddle Functions and Robust Sets of Equilibria" (with Vladyslav Nora) としてまとめ,CORE Discussion Paper 2012-50 として公開した.またいくつかのセミナーや研究会で報告した.
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