研究概要 |
本研究では,消費者(患者)ではなく,第三者(医師)が消費者の代わりに購入する製品(医療用医薬品)を決定するという特殊性を持つ医薬品企業のCSR(企業の社会的責任)活動が,その企業の医療用医薬品の売上増加につながるのか,また,つながるのであれば,どのようなCSR活動が医薬品企業の価値を向上するのかを解明することを最終目標としている。平成23年度は,探索的研究で導出した仮説の検証のうち,医師を対象としたアンケートによる量的調査を実施した。 まず,医師3名,患者3名の意見を参考として調査票を設計した。医薬品選定の仮説モデルに従い選定比率を問う質問,医薬品企業が取り組むCSR活動が会社の信頼性向上につながっているのかをリッカート7段階尺度を用いて評価する質問,CSR活動と製品選定の関係を直接問う質問,医薬品企業に期待する社会貢献活動を問う質問を設定した。その後,医師3名に対してパイロットテストを実施した。調査対象は,日本乳癌学会ホームページに公開されている817名の認定乳腺専門医とした。質問用紙法を用い,調査期間は5週間と設定し,回答率を上げる目的で,調査開始3週間後の時点でリマインダーを送付した。その結果,244名より回答を得た(回収率29.9%)。 なお,本調査の実施にあたり,送付先リストの作成,調査用紙の送付,回収調査用紙の管理,データ入力等の作業に関してがん患者の協力を得た。その一つ目の意義は,それを調査依頼文に記載することにより医師の参画を促すことであるが,もう一つ重要な点は,患者の雇用機会を増やす社会的意義であった。 また,社会との共通価値を創造するCSR活動について議論するため,社会イノベーションをテーマにワークショップを開催した。行政(広島県知事),非営利組織,企業,報道,学術研究者という5つのステークホルダーが議論する形態をとり,その模様は新聞に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,探索的研究で導出した仮説を実証し医薬品企業の価値を向上させるための条件を解明することを目的に,まず,得られたデータについて,統計分析を行う。次に,分析結果の解釈の是非,および知見を得るため,医師,患者,医薬品企業従業員を対象としたインタビューを行う。その際,他国との比較という観点で,米国の医師,患者へのインタビューを予定している。さらに,以上の知見に探索的研究をも包括し,研究全体をまとめ,諸外国,および日本国内での学会での発表,企業,患者を対象としたセミナー,および成果物(学術論文誌,実務家向け雑誌への掲載)を通じて積極的に研究成果を発信する予定である。
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