本研究はバランスト・スコアカード(Balanced Scorecard;以下BSCと略)に代表される,戦略的業績管理システム(Strategic Performance Measurement Systems;以下SPMSと略)のマネジャーの心理や行動に対する影響を実証的に明らかにするため,次の3つのプロセスで研究を実施した。 第1に,SPMSのマネジャーの心理や行動に対する影響を分析した先行研究の文献調査を実施した。その結果は学会で発表し,SPMSにおける「因果関係」の重要性,機能部門における現場のマネジャーに焦点をあてた研究の必要性を明らかにし,分析フレームワークを精緻化することができた。 第2に,SPMSと比較すべき伝統的業績管理システムの実態を明らかにすること,およびBSCと異なるSPMSの一形態としての予算管理の効果を明らかにするため,東証一部上場企業を対象とし,予算管理システムに関する郵送質問票調査を実施した。その結果は2回の学会発表や3本の学術論文の中で報告した。具体的には,まず,業績評価方法などの予算管理の特徴が違うと,全社としての予算の効果に異なる影響を与えることを明らかにした。これはマネジャーの心理や行動にも異なる影響を与えていることを示唆する。つぎに,これらの予算の効果への影響は,環境の不確実性の程度や組織文化の違いによって左右されることも明らかにした。 第3に,BSCを利用している一社を対象にフィールドリサーチを実施した。その結果,BSCの仕組みと利用方法の違いによって,必ずしもマネジャーの心理や行動に正の影響を与えるとは限らないことを明らかにした。この発見事項を間接的に利用してすでに学会発表を実施したが,現在この結果を直接用いた論文を執筆中である。
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