本年度は、企業の顧客戦略に貢献する以下の2種類の研究を遂行した。 第1は、企業の顧客関係管理に活用できる分析モデルの開発である。本研究では、消費者の行動プロセスを組み込んだブランド選択行動の分析モデルを構築した。企業の顧客理解には、個人ID付きPOS(Point of Sales)データなどの購買データが用いられることが多く、有用な分析手法が数多く提案されている。しかしながら、購買データはあくまで「購買」が記録されているデータであるため、消費者がどのような前提知識をもち、どのような意思決定プロセスを経て当該製品を購買したのかという内面の状態は観測できない。このようなデータに対して、これまでの分析モデルは、完全に合理的な意思決定を行う消費者を仮定し、分析を行っていたため、実用上多くの不都合があった。そこで、本研究では、消費者の前提知識を概念モデルから推測し、より適切なモデルの構築を行った。消費者の知識の限界をモデルに組み込み、より実在の人間の状態を妥当に反映したモデルを構築し、実証を行った。得られた結果として、提案したモデルは理論的に妥当であるだけでなく、予測精度などから、実用上有用なモデルであることが示された。 第2は、顧客戦略の新たな事例である、企業ポイント交換の有効性の検討である。現在、多くの企業がロイヤルティプログラムの一環としてポイントを発行している。このポイントは、本来は顧客の囲い込みのために発行しているものあるが、実際は別の企業との交換ができることも多い。そこで、本研究では、ポイント交換関係が形成される要因を、交換関係のネットワークから検討した。得られた結果として、企業のポイント交換関係の締結においては、企業・業界特殊の要因の他に、ネットワーク上の位置も影響を与えていることが確認された。
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