本研究は、国際貿易体制の規範構造を(1)戦間期の米国互恵通商協定、(2)前期GATT、(3)後期GATT、及び(4)WTO体制という4つの時代区分に応じて分析し、その歴史的展開を実証的に明らかにすることを目標とするが、今年度は、特に(3)後期GATTと(4)WTO体制について検討・分析を行った。 (3)後期GATTについては、特に東京ラウンドにおけるGATT19条の改正交渉や紛争解決手続の改正交渉について検討した。これら検討によって、GATT/WTO体制の「公法化」の端緒としてのケネディ・ラウンド、GATT/WTO体制の「公法化」にともなう「法の欠缺」の現れとしての一方的措置、そしてかかる「法の欠缺」を補充する「立法過程」としての東京ラウンドという仮説の論証が補強された。 (4)WTO体制については、特にWTO体制成立後の紛争解決手続における実行について分析を進めた。かかる検討によって、WTO体制成立後の紛争解決手続は、WTO法の「公法化」にともなって、2国間の紛争解決手続から、法そのものの遵守を確保する司法的な国際コントロール手続としての性格を有するようになったという仮説の論証が補強された。 これら研究は、国際貿易体制の成立と発展に関する包括的な歴史研究としての意義のみならず、例えば、TPPのような地域的な経済連携協定においてWTO協定に矛盾する規定を置くことの意味や、ドーハ・ラウンド交渉の停滞を受けて近年批判を集めている多角的貿易交渉における意思決定の在り方といった国際貿易体制をめぐる焦眉の課題に対する処方について検討する上でも、重要な意義を有する。
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