本研究の目的は、日本の公務員の数が他の先進諸国に比べて極端に少ない理由について考察することである。その説明の鍵となるのは、経済発展の早い段階で公務員数の増加に歯止めをかけたメカニズムである。特に本研究では、人事院勧告に基づく公務員の給与制度が戦後に導入された結果、政府が人件費を抑制する手段を欠くことになり、他国よりも早くから行政改革が試みることになった点に注目する。研究計画に従い、本年度は以下の二点について検討を行った。 第一に、制度の形成過程についての国際比較を進めた。従来指摘されてきた通り、日本の公務員制度は終戦直後の公共部門の労働運動が急進化への対応として形成された。問題となるのは、日本で特にそうした結果が生じた理由である。この点について明らかにするべく、日本と同じく戦間期から戦時中にかけて労働運動に対する抑圧を経験したヨーロッパ諸国との比較を行った。 第二に、政権党の党派性の効果を検討した。日本の公務員数についての標準的な福祉国家論に基づく一つの説明は、自民党の一党支配の下で社会民主主義政党の勢力が弱かったことである。しかし、先進諸国のデータを分析した結果、同じ国の中では政権党のイデオロギーの変化は公務員数の増減にほとんど影響を与えず、また1970年代以降に行政改革を開始した国でも政権党の左右に関係なくそうした政策転換を実施していることが明らかとなった。 研究計画に付け加えた事項としては、公共部門における雇用が持つ社会政策としての効果を統計分析によって推定したことが挙げられる。特に、女性公務員の家事労働の時間が特に日本を初めとする公務員数の少ない国においては民間部門に比べて短いことを示し、この部門において創出される雇用が男女の平等を促進する可能性が示された。
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