本研究では、日本の公務員数が他の先進諸国に比べて少ない理由についての考察を行った。特に、先行研究が他国と日本の違いを説明する論理を持たないことを明らかにした上で、制度的な観点から日本における公務員数を説明する理論的な視角を組み立てることに努めた。その概要は以下の通りである。第一に、現在の日本の公務員数が少ない理由は、経済発展の早い段階でその増加を抑制するための行政改革に取り組んだことである。すなわち、欧米諸国においては少なくとも1970年代末までは続いていた公務員数の増加が、日本においては戦後の高度成長期の段階で急速に鈍化した結果、公務員数が肥大化する前にその拡大が未然に防がれたのである。第二に、こうした行政改革のタイミングの早さを説明する重要な要因は、公務員の給与制度の特殊性である。日本の公務員の給与は、多くの国において見られるような団体交渉ではなく、人事院勧告を通じて民間部門に合わせて設定される。このことは、人件費の抑制が必要な局面で財政当局が有効な給与水準の抑制手段を持たないことを意味するため、結果として行政改革によって人件費の抑制が行われやすいという傾向を生み出す。特に日本の場合、高度成長期までは繰り返し国際収支問題に直面して財政的な引き締めを迫られていたことが、人事院勧告の存在に伴う財政の「硬直化」に対する財政当局の警戒感を生み、それが総定員法を中心とする公務員数の増加抑制のための施策へと帰結することになった。本研究では、こうした議論の妥当性を示すため、しばしば行政改革の先駆的な例とされるイギリスの事例を歴史的に観察し、1970年代における公務員数の増加の抑制が、サッチャー政権の登場以前に、国際収支問題と公共部門の労使紛争への対応として生じていたことを示し、さらに1980年代以降の先進諸国の比較を通じて公共部門の給与問題と行政改革のタイミングの関係を明らかにした。
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