本研究では、近年増加する経営陣による自社買収(マネジメント・バイアウト。以下MBOという)により株式上場を廃止した企業に関して、その価格形成の合理性および上場廃止の意思決定をもたらす要因分析を行った。 具体的には2009年から2011年までに行われたMBO取引とそれ以外の企業買収取引を比較し、取引時点での業況にどのような差があるか、それが企業買収時の価格形成にどのように影響を与えているのかを分析した。業況に関しては、MBO取引を行った企業と上場を維持している企業との間で有意な差がみられた。すなわち、経営者が自社買収を選好するような企業においては、企業内部に留め置かれている利益が多く、またそのことを経営者が意識して自社買収を行った可能性が明らかとなった。 また、MBOの価格形成において問題となるのは、買収主体でもある経営者が、経営者として自社株式の価値を高めることよりも、買収主体として自社株式の価値を故意に低めて安く買収するといった行為を取ることである。この場合、MBO取引においては買収時点の株価が下がっていることが考えられるため上記期間のMBO取引について、MBO実施3ヶ月前からの株価の動きをそれ以外の企業買収取引と比較したが、統計学的に有意な差は見られなかった。但し、幾つかの事例において明らかに株価の下落が見られたり、経営陣の意識的な価格操作が内部告発等により露見するなどといった事実を観察することができた。 これらの成果は、特に統計学的に明らかな結果を得ることができた業況に関する分析結果を中心に、所属学会において研究発表を行い、査読付き論文として内容をまとめ、社会への還元を行った。近年、株式市場から自主的に退出する企業が注目されているが、その要因を解明し、必要に応じて政策的な手段も含めた株式市場の活性化を考える上で本研究では意義ある成果を獲得できたと考える。
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