本年度はニューヨークの都市再編のプロセスをより詳細に分析するために、特に、SoHo地区で1970年以降に進展したアーティストの集積に伴うジェントリフィケーションのメカニズム解明を試みた。この目的を達成するために、2、3ヶ月程度の現地滞在を複数回繰り返し、集中的に現地調査を行った。 こうした研究の結果、下記の三点が明らかになった。①SoHoにおけるジェントリフィケーション進展プロセス。特に、Fluxus・SoHo Artist Association、自治体、デベロッパーらの動きに着目しながら、地域の変化を通時的に整理した。②1971年のSoHo地区におけるゾーニング法改正プロセス。1971年のゾーニング法改正はSoHoにおけるジェントリフィケーションが進展するための大きな転換点であったが、これまで改正の要因について十分な研究がなされてこなかった。聞き取り調査、ドキュメント分析を行うことによって、アーティスト、自治体職員、地域の有力者達の、組織の垣根を越えた緊密な共同のネットワークが法改正につながったことを明らかにした。③オルタナティブ・スペース・ムーブメントの動向。SoHoでは、アップタウンのコマーシャル・ギャラリーに対抗するオルタナティブな作品生産・流通のネットワークが形成されたことにより都市空間変動の基盤が作られた。オルタナティブ・スペースというSoHoにおける作品流通の拠点を調査することで、概括的な状況を把握することができた。 本年度明らかになったSoHoの空間変動のプロセスは、本申請研究の目的であったニューヨークの都市再編を解明する点において重要な知見をもたらしうると考えられる。なぜならSoHoは都市再編が進展したニューヨークのもっとも典型的な地区の一つであるため、ニューヨーク市全体の変動を説明する際にも有意義な知見を提示しうるからである。
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