本研究の目的は、今後増加が予測される、遠距離介護の全体像を把握し、支援の可能性を探究することにある。今年度は、研究代表者がこれまで行ってきた遠距離介護者に対するインタビュー調査のデータにもとづいて、本研究の目的に照らした再分析を行った。 具体的には、特に遠距離介護者が、親を呼び寄せるか否か、あるいはUターンするか否かという同別居問題が、どのように浮上し、遠距離介護者がそこにどのような意味を付与しているのかについて検討した。 分析に際しては、遠距離介護者が老親との同別居の判断について、「動機の語彙論」的アプローチを採用した。分析によって得られた知見をまとめると、以下の通りである。遠距離介護の動機は、遠距離介護という行為に対して直接提示されるというよりも、なぜ同居という形態をとらないのか、その理由の提示というかたちで、まずは示されるのであった。この背景の一つとして、親が要介護状態でありながら、Uターン同居を行わないことが、遠距離介護者に対して批難をともなうものであるからだった。そしてそうした批難に対する<弁解>や<正当化>を行うために、Uターン同居が選択されない理由の提示が行われているのである。他方、呼び寄せ同居をしないことの理由は、まずは呼び寄せ自体が環境の変化によって、親の認知症を進行させることとして親のために<正当化>され、その上で呼び寄せ同居が、家族の負担を増加させるという子ども側の理由からも<正当化>されていくのであった。 今年度の研究を通じて明らかになったことは、遠距離介護者は、親と離れて暮らしているというその現状に、つねにある種のやましさを抱えているのであり、それでも彼らは親との距離を縮められず、しかしかかわり続けねばらない、そうした当事者の苦しさであった。
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