これまで、もっぱら遠距離介護者にのみ限定されていた遠距離介護の研究を、遠距離介護者に加えて、その相手方である要介護高齢者と、彼らを支援している福祉職者も含むことで深化・発展させることが今年度の研究の目的であった。 研究の結果、在宅の高齢者は介護負担に疲弊しながらもなお強い在宅志向を持っており、そのことは時に遠距離介護者の負担感を増す場合も存在することが指摘できた。すでに施設入所をしている高齢者においては、死をも見据えた形で現状を受け入れており、施設の状況に不満があっても、離れて暮らす子供の迷惑にはなってはいけないという気持ちや、施設入所をしてもなお、葬式などを通じて地域との関係を持続したいと考えていることが明らかとなった。 また支援者の認識においては、必ずしも、家族が離れて暮らしているという居住形態のみから、家族の関わりを判断しているわけではなく(つまり、遠距離介護者に対して、一概に同居・近居すべきといった批判的な眼差しを向けているわけではなく)、離れて暮らしている状況の中でなお、子供たちが老親とどのように関わっているかという、その内実をもって、離れて暮らしている子供たちを見つめているのであるということが指摘できた。 また遠距離介護者と支援者が実際に相談を行っている場面の参与観察からは、支援者が施設入所や同居ではなく、高齢者の在宅生活を可能にするための提案を行う際に、常に遠距離介護者自身の意向を尊重すべく、提案が受け入れられない可能性に非常に敏感な形で、つまり家族に対して支援者が無理強いとならないようにするための、細心の注意が払われながらのコミュニケーションが行われていることが明らかになった。
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