研究課題/領域番号 |
23830061
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
山口 朋泰 東北学院大学, 経営学部, 准教授 (50613626)
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キーワード | 会計学 / 財務会計 / 利益マネジメント / 会計的裁量行動 / 実体的裁量行動 / 経営者交代 |
研究概要 |
退任直前の経営者は、自身の最後の報酬を増加させるために利益を増加させるインセンティブがあると言われる。そこで本年度は、退任直前の経営者による利益マネジメントについて分析を行った。経営者が利益を調整する手段として、会計方法の変更による会計的裁量行動だけでなく、事業活動の操作による実体的裁量行動についても分析対象とした。会計的裁量行動については裁量的会計発生高によって包括的に捕捉し、実体的裁量行動については、一時的な値引販売による売上操作、研究開発費や広告宣伝費などの裁量的費用の削減、売上原価の低減を図る過剰生産、の3タイプに焦点を当てた。 分析の結果、退任前年度の経営者が利益増加型の実体的裁量行動を実施することが示唆された。一方で、退任前年度の経営者が会計的裁量行動を行う証拠は得られなかった。さらに、退任前年度の経営者による利益増加型の実体的裁量行動が、経営者自身の株式保有によって抑制されることも示唆された。 実体的裁量行動は会計的裁量行動と比べて研究の蓄積が浅いが、経営者の利益マネジメントを解明するためには、会計的裁量行動だけでなく実体的裁量行動も検証する必要があることを本研究の結果は示唆しており、その点に本研究の意義がある。また、経営者による利益増加型の実体的裁量行動は企業の将来業績に悪影響を与えるという研究成果もあるため、企業にとっては当該行動を抑止するようなコーポレート・ガバナンス・システムを構築することが望ましい。その意味で、本研究は退任前の経営者による株式保有が利益増加型の実体的裁量行動を抑制する可能性を示しており、コーポレート・ガバナンス・システムを検討するうえで重要な基礎資料となる。 本研究の成果は東北学院大学で行われたメルコ学術振興財団セミナーで報告し、そこで行われた議論を基礎に現在ディスカッション・ペーパーを作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、本年度において退任前経営者と新任経営者が利益マネジメントや予想マネジメントを行っているか否かを検証する予定であったが、周囲の研究者の意見を取り入れながら軌道修正を図ったこともあり、実際には退任前経営者の利益マネジメントについてより詳細な分析を行うこととなった。 新任経営者の利益マネジメントと予想マネジメントを分析できなかった点は当初計画よりも遅れていると言えるが、退任経営者の利益マネジメントについて経営者の株式保有との関連性も解明するなど当初計画以上に進展している側面もある。 上記の理由から、当初研究目的の達成度について「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は、会計的裁量行動と実体的裁量行動をそれぞれ独立の行動として扱ってきた。ただ、両行動は利益を調整するという意味では同じであるため、両行動の影響を包括的に測定できる指標を作成する、あるいは両行動の代替関係を考慮した分析を実施することで、研究をより発展させたい。この推進方策は当初の研究計画になかったものであるが、両行動の相互関係の調査は経営者の利益マネジメント行動をより深く知るために有益であり、当初の計画で実施予定だった予想マネジメントに関する調査よりも優先したいと考えている。
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